なり手不足?プロ野球界のコーチに求められるものは何か 内田順三氏の視点「名選手であっても1年も持たないのが現実」
今オフ、プロ野球界では15人以上のコーチが他球団へ移籍する「横滑り」が多くみられた。なり手が不足しているとも言われる現代で、コーチに求められるものは何か。コンプライアンスとの狭間で指導する難しさ、科学的データに基づく中でどう指導していくか。強打者の育成に携わってきた打撃の名伯楽・内田順三氏(デイリースポーツ・ウェブ評論家)の考えを聞いた。 ◇ ◇ 昭和、平成、令和と時代が移り、確かに今はすぐにチームからコンプライアンスの話が降りてくる。昭和は半強制的に練習をやらせていたが、今のコーチングは選手にどう行動を起こさせるか。叱ることに気を使うコーチもいるが、そっぽを向かれるのを恐れて選手にお願いするようなやり方はコーチングではないよね。 もちろん、人それぞれに合ったコーチングがある。阿部慎之助、鈴木誠也のように向かってくるような選手にはガンガンやらせることもできるが、岡本和真のようなタイプに同じやり方をしては上の空になってしまう。引っ張るのか、褒めて育てるのか。いずれにしろコーチは「優しくていい人」では務まらないし、ただのお手伝いになってもいけない。 引退後30歳、40歳くらいの年齢で、球団からのご褒美でコーチをしているんではダメ。見ていると、たとえ現役時代にいい選手だったとしても、教え方やビジョンがなければ1年も持たないのが現実だ。今は各チームにアナリストがいてボールの回転数、打球速度といったさまざまな科学データを提供してくれる。それをもとに技術にどう結びつけていくかというのも、今のコーチには求められている。昔なら振ってナンボというのが通用しないし、コーチも対処できるようにオフも勉強しないと務まらないよね。 それでも、量で質を作る、という練習が必要になる時もある。そうした時に選手をどうその気にさせるか。コンプライアンスが言われる今の時代、「ばかたれ」と叫ぶようなことはもちろんいけないが、奮い立たせるような叱咤激励は大事だよね。腹の底から声を出して「やろうぜ!」と伝えることがあってもいい。 もちろん、日頃からコミュニケーションを取ることが前提で、「お前をうまくしたいんだ」という思いをぶつければ選手には必ず伝わる。厳しい練習であっても、「あの時は顔も見たくなかったが、今の自分があるのはあの時のおかげ」。そう選手に言われるような、余韻の残るコーチになれるのが理想だよね。