シャアにせよドズルにせよジオンのお偉いさんはなぜ前線に出てくるのか あと壺の人も
連邦の白い悪魔を足止めしたマ・クベ、戦力を失いすぎたドズル
それと引き換え「マ・クベ」は、「最も前線に出たくない人」のはずでした。初登場からまもなく試作型MA「アッザム」に乗って交戦していましたが、それは「前線」=「ガンダム」の方が殴り込んできたためです。 たまたま「アムロ」が「ホワイトベース」から脱走した時に、たまたま近くに全世界で100以上もあるジオン鉱山基地のうちのひとつがあり、たまたまそこへ「キシリア」が視察に来ていたのです。激レアのガチャを一発で引き当てる、逆豪運の持ち主でしょうか。 その後、地球上ではガンダムとホワイトベースを引き離すなど策略の限りを尽くしていましたが、よほど恐怖のガンダムと会いたくなかったのでしょう。 さらに終盤では、自分用に開発させた特注MS「ギャン」に乗り、「テキサスコロニー」近くでガンダムに一騎打ちを挑んでいます。以前にアムロ=ガンダムが水爆ミサイルをぶった切った神業を見ておいて気は確かか、とも思えますが、岩石に砲塔を仕込んだり、コロニーの隔壁に爆弾を仕掛けたり、空中機雷を撒いておいたり、段取りの良さはさすがの策士です。 何より、ただでさえジオン軍がジリ貧のなか、残り少ない兵力をすり潰すガンダムをたった1機で足止めしたことで、「ザク」や「ドム」は何十機か助かった可能性もあります。いろいろと問題行動もありましたが、最後は「MSに乗ること」こそが指揮官らしい振る舞いだったのです。 最後に「ドズル・ザビ」は、いかつい顔や大柄な体格、勇ましい言動から「前線で戦う指揮官」のイメージがあるものの、少なくとも『機動戦士ガンダム』本編で乗った機体はMA「ビグ・ザム」だけです。とはいえ、中将という上に大将しかいない身分の人が、巨大メカを駆って地球連邦艦隊にカチコミしただけでも十分に強烈ではあります。 ほぼジオン軍のトップという立場から、ドズルは「ビグ・ザムに乗る理由」を自ら作り出しています。優秀なゲリラ屋の「ランバ・ラル」を「ガルマの敵討ち」という戦略的に意味の薄い任務に派遣して失ったり(出世コースから外れていた人ではありますが)、部下のコンスコンは「リック・ドム」12機を使い潰していたりと、ソロモン攻防戦でパイロットやMS不足になるのも当然でしょう。 ギレンに増援要請したのにビグ・ザム1機送られてきただけ、それにドズルはキレて「戦いは数だよ兄貴!」と名セリフを叫びます(劇場版第3作『めぐりあい宇宙編』)。戦争では一点豪華の質よりも量を求めることは全くの正論ではありますが、数を減らしたのはおまえの責任だよな? というギレンの含みもありそうです。 ともあれこのように、マ・クベは「白い悪魔」(ガンダム)による犠牲を減らし、ドズルはソロモンからジオン兵が逃げる時間を稼ぎ、なんだかんだで指揮官の務めは果たしているのです。 一方、一年戦争終盤におけるシャアの振る舞いは前述したとおり、アムロ&ガンダムのストーカーと化し、自ら最前線に出続けます。ザンジバルで、配下のパイロットやMSを損耗することもなく見事な采配を振るっていた頃のように、指揮に徹すべきだったのでは……。それは自分が援護するはずの「ララァ」に「大佐! どいてください! 邪魔です!」と言われたとき、本人が骨身に染みて思い知ったのかもしれません。
多根清史