自衛隊「200人大量処分」はなぜ起きたのか…今こそ参考にすべき、あの防衛庁長官「驚愕の胆力」と「情報伝達・意思決定システム」
前篇「なぜこれほどまでの失態が…防衛省の前代未聞『200人大量処分』で明らかになった『組織的犯罪』の根本原因」で描いたように、今の自衛隊には情報共有・意思決定の有効なメカニズムが欠落している。どこに問題があるのか、どうすればよいのかを考えて見る。 防衛省の前代未聞「200人大量処分」で明らかになった「組織的犯罪」の根本原因
不協和音が聞こえる政策参与制度
「個」を「個」が補佐する問題点が露呈したのが、11年の東日本大震災だ。発災時に統合幕僚長(陸将)だった折木良一氏は、津波等による被災者救援に加え、原発事故対応など多岐にわたる自衛隊の活動を指揮すると同時に、首相官邸や防衛相を補佐し、米軍との調整にもあたった。筆者は当時、折木氏が「自衛隊の指揮と首相や防衛相の補佐という二役を担ったが、とても難しく、重い仕事だった」と語っていたのを鮮明に覚えている。 そして、折木氏が訴え続けた「統幕長が指揮と補佐という二役を担い、部隊指揮に手間取ることがあれば致命的な結果をもたらしかねない」との危惧から誕生するのが、統合作戦司令部であり、そのトップとなる統合作戦司令官だ。 大臣を補佐する幕僚と、部隊運用を担う指揮官を明確に区分したことは評価できる。だが、「個」を「個」が補佐するというシステムの問題点は残ったままだ。 その懸念は昨年9月に就任した木原防衛相が昨年末、3人の政策参与を任命したことで的中する。3人は元陸将、元海将、元空将で、軍事の専門家としてだけでなく、日米関係や日韓関係などにも造詣が深く、木原防衛相も「防衛大臣の補佐体制を一層強化することが必要不可欠であり、3名の方々には、防衛力の抜本的強化や将来の自衛隊の在り方などについて、忌憚のない助言をしていただきたい」と語っている。 政策参与は「防衛省の所掌事務に関する重要事項に関し、防衛大臣に進言し、意見を具申する」(防衛省設置法)という重責で、3人まで置くことができると定められている。これまでの大臣も、元事務次官や元統幕長らを任じているが、陸海空の元将軍3人を任命したのは木原防衛相が初めてだ。しかしその直後から、大臣を補佐する陸海空の幕僚監部からは「大臣は現役の幕僚を信用していないのか」「政策参与の意見を重視するのなら、我々は不要ではないか」といった不協和音が、筆者のところまで聞こえてくるようになった。 任じられた3人に問題があるのではない。大臣を補佐する統幕長や陸海空の幕僚長、そしてその部下に多くの幕僚がいるにもかかわらず、陸海空ごとに幕僚長の先輩である元将軍を任命するという見識を疑わざるを得ないのだ。 幕僚に求められる資質に、指揮官や組織に対する忠誠心や提案力が挙げられるが、現状はそれを弱体化しかねないといっても過言ではない。