朝霧JAM ’24総括 小泉今日子に観客が涙、緑豊かなロケーションと数々の名演
夜の朝霧JAMを彩る熱演、まさかの名曲も
次はRAINBOW STAGEでアイスランドのプロデューサー、オーラヴル・アルナルズとヤヌス・ラスムセンによるエレクトロ・ユニット、キアスモス(Kiasmos)。10年振りのフルアルバムをリリースし、前日の恵比寿リキッドルームでの単独公演もソールドアウトさせていた彼らのテクノ・サウンドに朝霧JAMのフロアも熱く盛り上がる。ここまで残念ながら雲がかかっていた富士山も途中で顔を覗かせてくれた。 LAを拠点に活動する鍵盤奏者/作曲家/プロデューサー、ジョン・キャロル・カービー(John Carroll Kirby)は宵も迫り冷えてきたMOONSHINE STAGEでプレゼントかのようにYMOのカバーを2曲披露。暖かなムードで会場を包み込んだ。 この時間になるとすでにRAINBOW STAGE後方では焚き火が始まっており、Corneliusによる何度見ても圧巻の映像とシンクロしたステージを見つめながら暖をとることができた。 ここで本格的な夜に向けてエネルギー補給。ゆぐちの富士宮焼きそばは、もっちりとした太麺がしっかり美味しい。MOONSHINE STAGEから聞こえる石橋英子のバンドセットによる見えない薄い膜で包まれるような歌と、ときに荒々しく火花を散らす演奏に興奮しながらも、会場を囲む山々の稜線から明かりが徐々に消え、星が瞬き始めるのを見てただ癒された。 さていよいよRAINBOW STAGEのトリ、先日ダンス・ミュージックを軸にした素晴らしい最新作『Honey』を発表したばかりのカナダのカリブー(Caribou)が実に9年ぶりとなるバンドセットでの登場だ。踊れる、なおかつ遊び心溢れるサウンドでフロアの中は10月の夜の野外だとは思えないほどアツい。一糸乱れぬバンドの躍動感も凄まじかった。 まだ続くカリブーの演奏に後ろ髪を引かれながらも、いとうせいこう is the poet with 小泉今日子を観にMOONSHINE STAGEへ。かねてからファンだったキョンキョンを生で一目見ようと思っての移動だったが、おもいがけず、そのパフォーマンスは個人的に今回の朝霧JAM最大のハイライトとなった。1曲目に代表曲の一つ「なんてったってアイドル」のアレンジ・バージョン「なんてったってロックフェス」を披露しグッと会場の温度を上げると、独立し株式会社明後日の代表取締役として、何より一人の人間として社会正義に向き合い続けてきた彼女だからこそ一層心に響くメッセージを届けていく。中でも、突き上げるようなメッセージの響く「女性上位万歳」や「友達というよりもバディ/運命変えるのさ」と社会に変化を促すための連帯を歌う新曲「バディ」には胸がいっぱいになってしまった。いとうせいこう is the poet with 小泉今日子のステージが終わった直後にすれ違った女性の泣き腫らした目を、私はしばらく忘れることができないと思う。 その後はテントに戻り、同行者や現地で会った知り合いと感想を交わしながら一杯ひっかける。この瞬間が一番嬉しいかも、なんて思うけれど、それが味わえるのも1日朝霧JAMを満喫したからだ。頭上に広がった星空が本当に綺麗だった。 ここまででお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、筆者はこの日RAINBOW STAGEとMOONSHINE STAGEのアクトをすべて見ることができた。それはステージ間の移動が苦にならない距離だからだろうし、芝生に座ったり寝転がったりしながら演奏を聞いたり、体力的に無理をしなくても許される、というと言い方が変かもしれないが、みな思い思いに楽しんでいて、鑑賞の仕方を強制するような空気が一切ない朝霧JAMだからこそだろう。それぞれが様々な目的を持って参加するフェスとしてすごく魅力的なポイントだ。