センバツ2024 近江で指導、高岸さん 極める動き超える限界 解剖学とダンスの基礎ミックス /滋賀
今春のセンバツに出場する近江の選手に「体の動きの根拠」を伝え、持てる潜在能力を引き出す指導の達人がいる。浜松市から週3回、同校を訪れて指導するコンディショニングコーチの高岸佳宏さん(65)だ。【菊池真由】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 高岸さんは1976年、プロ野球・近鉄バファローズに入団。オフにプレーしたゴルフの楽しさを知り、21歳で引退、プロゴルファーに転向、今も現役を続ける。一方で、コーチとして近江OBで埼玉西武ライオンズの山田陽翔選手や、プロゴルファーの横峯さくら選手らを指導した実績も持つ。 近江との出会いは2018年。経営していたグラウンドゴルフ場の社員が近江OBだった縁で多賀章仁監督に指導法を講義したところ意気投合。20年に山田選手が入学すると「陽翔をプロにしてほしい」と頼まれて山田選手のトレーニングや食事管理を担った。 昨夏の甲子園で近江が初戦敗退した後、高岸さんは多賀監督に「大丈夫ですか?」と連絡すると「選手を見てほしい」と返信を受け、新チームの練習試合を見に行くと、選手が体の動きをコントロールできていないことに気付いた。チーム全員の指導を依頼され、昨年8月から「甲子園で通用するには何が必要か」をテーマに体の動かし方を伝授する。 高岸さんの指導には二つの特徴がある。一つは解剖学に基づく指導だ。約20年前、背中を痛めた弟子が治療院でバランスボールを使ってさまざまな動きをしているのを見た。「見たことのない動きをしている。研究しなければ」と大学教授から体の動きのメカニズムを学び、野球での動きを取り入れて独自の指導法を確立していった。 高岸さんは「全てのスポーツにそれぞれ専門的な動きがあるが、筋肉や骨、関節には正しい動き方があり、それを理解しなければ良いパフォーマンスは生まれない」と選手に語りかける。練習開始前には「ボールを投げる時は胸が縮んで開く、打つときは最初に腰を動かす」など体の動かし方をホワイトボードで説明。選手は真剣な表情で理論を理解し、取り入れようと自分の体と向き合い続ける。 二つ目はアイソレーションだ。体の特定の部分を分離、独立して動かす神経系のトレーニングで、ダンサーが基礎として取り入れる。解剖学による指導を始めて数年後、娘に連れられて行った人気グループの「EXILE」のコンサートを見て「動きは速いのに、体の軸がしっかりして美しい」と感じた。ダンサーの動きを学び、野球での経験や解剖学での体の動かし方と組み合わせた。 近江で指導を始めた際、選手にアイソレーションの動画を送り、今では半数以上が体を自在に動かせるようになった。高岸さんは「技術向上にも限界がある。それを超えるには正しい体の動き方を知り、無意識に動かせるようになることが大切だ」と力説する。また、土台となる体の軸がゆがんでいれば成長が頭打ちになるため、バランス維持を目的に腹筋やスクワット、ジャンプなどを組み合わせたサーキットトレーニングにも注力する。 グラウンド外でも常に選手と連絡を取り合う。選手らは自らのトレーニング動画を送って助言を求め、最近は連絡してくる選手も増えてきた。どこまでも選手に寄り添い、体の動かし方を教える高岸さん。「近江を日本一にし、多賀監督を胴上げすることが自分の役割」と力を込めた。