テスラが「トヨタを買収しよう」と言ったとき、イーロン・マスクとトランプを日本政府は本当に止められるのか…?
テスラの「トヨタ買収」、日本政府は断れるか…?
日本製鉄によるUSスチール買収についてアメリカのバイデン大統領は、公式に反対の意見を表明しています。 【写真】いま全米が注目…トランプの「美人すぎる側近」の正体! 前編『もしテスラが「トヨタを買収したい」と言い出したら、日本政府はどうすればいいのか…?』で解説してきましたが、背景にはUSスチールのライバル企業がペンシルバニア州にあって、この企業がUSスチールの競争力が向上すると業績が悪化することを懸念しているのです。 ペンシルバニア州が大統領選挙の激戦州であったことから、民主党・共和党両党ともUSスチールの買収に反対していたのです。USスチールの買収に反対したのはトランプ大統領の方が先でした。 トランプ新大統領が誕生して、石破首相との間の会談で日本製鉄の問題が話題になれば、日本側は、日米が同盟国であることを前提に両国は国益を超えて協力すべきだし、過度に自由経済の原則に介入しないほうがいいとアピールするかもしれません。 そこでトランプ大統領は日本の主張に大きくうなずき、同盟国同士は買収に政治介入をしない原則を私も確認したと言い出し、バイデン前大統領が決めた日本製鉄阻止に関する決定をすべて無効にすると約束してくれるかもしれません。 日本政府の代表団は、日本製鉄のUSスチール買収が前進したことに安堵を覚えるでしょう。しかし、もしそうなれば、ホワイトハウスではトランプ大統領の腹心となったイーロン・マスクが笑みを浮かべているかもしれません。 「これで日本政府は、テスラのトヨタ買収に反対できなくなった」と……。
「トヨタ」に舌なめずりのテスラ
日本製鉄のUSスチール買収同様に、テスラによるトヨタの買収提案は株主に対しては合理的なメリットが少なくとも3つあります。 1つはSDV(software defined vehicle)技術の供与。2つめに自動運転技術の供与。そして3つめがギガファクトリー技術の供与です。 テスラと中国のBYDの躍進に関して、日本ではEVであることが報道で取り上げられることが多いのですが、関係者の間ではむしろ両社のSDV技術が注目されています。 SDVとは、ひとことで言えば「ソフトウェアをダウンロードすれば性能があがる自動車」のことです。スマホのようにOSやアプリがアップデートされると性能があがるのです。 実際、テスラの乗用車では同じモデル3で、新車でも3年前に販売された車でもソフトウェアさえアップグレードすれば同じ自動運転性能の車になります。一方でトヨタをはじめとする伝統的自動車会社は、このSDVのOS開発で後手を踏んでいます。 開発がうまくいっていないため、スケジュールが遅れに遅れ、直近では2026年発売の新車からようやくSDV車がデビューするというのが計画の最短スケジュールです。現在進行形の開発ではそれが遅れるリスクがありますが、テスラの投資があればそれとは別に並行してテスラのOSを移植する新車を開発することが可能になります。 二番目のテスラの自動運転の性能については諸説ありますが、少なくともトヨタ方式とは別のAI能力が選択肢のひとつに入るのは買収のメリットに数えるべきことでしょう。 三番目の要因に関しては、生産コストの面では長らくトヨタのカンバン方式が世界の自動車工場の生産性のトップに君臨してきましたが、現在ではテスラと中国にそれぞれ別の理由で抜かれています。 中国の自動車メーカーが低コストなのは主に人件費など要素コストの安さが反映された結果ですが、テスラが低コストな理由はギガファクトリーの巨大さに理由があります。そしてテスラの方式は伝統的な自動車メーカーに移植可能なのです。 それらの技術移転の可能性を考えた場合、株主から見ればテスラがトヨタを選ぶのか、それともGMやVWを選ぶのかで将来のリターンが大きく変わります。 この点で見れば実はトヨタの株主は他のビッグ5の株主よりもアドバンテージがあります。というのもテスラからみて、一番抵抗が少なく買収後の経営統合が進められるのは日本企業だからです。 考えてみるとわかりますが、GMとフォードは組合がうるさいですし、VWの経営陣は頑固で言うことを聞きません。ステランティスは傘下企業の国籍が多すぎる。 それと比べればトヨタの場合は現経営陣は買収に抵抗するでしょうけれども、総会で経営メンバーを入れ替えてしまえば、あとは日本人なので比較的従順に新しい経営者の方針を聞いてくれるはずです。 テスラから見れば、トヨタを買収する最大の価値は人的資本です。あれだけの数の優秀な日本人のビジネスパーソンを取得できるのです。それが年間1000万台の販路と推計で6000万人を超える顧客資産とともにPBRほぼ1.0倍の破格の条件で手に入ります。 こんなお得なディールは他にはないでしょう。
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