米大統領選の行方と財政・金融市場への影響:トランプ勝利でスタグフレーションのリスクが高まる
トランプの勝利はスタグフレーションのリスクを高める
米ゴールドマン・サックスは、トランプ氏の政策が実施されれば2025年下期の経済成長率が最大0.5ポイント押し下げられる一方、ハリス氏の政策は成長率をわずかに押し上げるとしている。 著名経済学者のヌリエル・ルービニ氏も「トランプ氏が大統領選で再選されれば、米経済がスタグフレーションに陥る危険が高まる」と警告する。トランプ氏の通商、移民、外交、財政、通貨、金融のそれぞれの政策の組み合わせは、ハリス氏が当選した場合よりもスタグフレーションに陥るリスクがはるかに高い、とする。特に労働市場の悪化をもたらす移民排斥や追加関税の導入は景気の減速につながる、と指摘している。一方でトランプ氏は、中東情勢を混迷させ、原油価格の上昇によってインフレ圧力を再び拡大させることを懸念している。
ハリス勝利で緩やかな株高、ドル高、債券安、トランプ勝利で大幅な株安、ドル安、債券高
ハリス氏、トランプ氏のどちらが勝利しても、財政赤字をより拡大させる方向に働きやすい。また、双方ともに物価高対策の有効性、実現可能性には疑問がある一方、財政赤字の拡大はインフレ要因ともなる。そしてトランプ氏の場合には、追加関税が国内物価を大きく押し上げる。 そのため、双方ともに財政環境の悪化と物価上昇観測から長期金利は上昇しやすいが、その程度はトランプ氏勝利の場合の方が短期的には大きくなると見込まれる。さらに、追加関税の導入は国内経済を悪化させることから、トランプ氏勝利の場合にはスタグフレーションのリスクがやはり高まるだろう。 この長期金利上昇は、短期的にはドル高要因になりうるが、財政悪化を背景にする長期金利上昇はいわば悪い金利上昇であり、多少長い目で見ればドル安要因になり得る。特にトランプ氏勝利の場合には、追加関税の導入によって景気悪化リスクが高まること、米連邦準備制度理事会(FRB)への利下げ圧力を強め、それを通じてドル安誘導を図る可能性があることから、より顕著なドル安となりやすい。 大統領選挙の結果を受けた金融市場の反応は、ハリス氏勝利の場合には緩やかな株高、ドル高、債券安(長期金利上昇)が予想される。一方トランプ氏勝利の場合には、大幅な株安、ドル安が見込まれる。財政の悪化と追加関税による物価高は短期的には債券安要因になるが、景気の悪化が顕著となり、それを受けてFRBの大幅利下げ観測が強まれば、多少長い目で見て債券高要因(長期金利低下)となるのではないか。 (参考資料) "Economists Say Inflation, Deficits Will Be Higher Under Trump Than Harris(インフレ・財政赤字、トランプ氏再選の方が深刻=WSJエコノミスト調査)", Wall Street Journal, October 15, 2024 「トランプ再選でスタグフレーション 「破滅博士」が警告」、2024年10月11日、日本経済新聞電子版 「2氏の公約、巨額赤字呼ぶ トランプ氏、減税恒久化で1100兆円/ハリス氏は中間層支援で510兆円(米大統領選2024)」、2024年10月9日、日本経済新聞 「トランプ氏とハリス氏、経済政策の違いはどこか」、2024年9月11日、NIKKEI FT the World 「24年度の米財政赤字、コロナ禍以降で最大に 議会予算局が試算」、2024年10月9日、ロイター通信ニュース 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英