生活保護申請の“恣意的な却下”多発、自治体に「受給は悪」の意識? 不適切運用の要因「厚労省通知」改正求め弁護士ら要望書
「娘にだけは照会しないでほしい」望まない親族へ扶養照会
また、一般社団法人「つくろい東京ファンド」の小林美穂子さんは、「就職したばかりで手取りの収入が低く、また妊娠している娘を持つ父親が、『扶養照会が娘に届くことはつらい。娘にだけは照会しないでほしい』と懇願したが認められなかった、という話も聞いている」として、金銭的な支援が可能かどうかの扶養照会が申請者の親族(おじ、おば、おい、めいも含む3親等内)に及ぶことへの問題点を指摘した。 小林さんによれば、DV(ドメスティック・バイオレンス)の加害者である親族への照会を嫌がる申請者が、申請窓口の職員から「(DVの)証拠を持ってこい」と言われたケースもあったという。
「扶養」に関する次官通知など改正求める
厚労相に宛てた要望書では、こうした「扶養」に関する不適切な運用の原因に、自治体等への大きな影響力を持つ「厚生労働省通知」があるとして、その改正を求めた。 たとえば「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社 第123号厚生事務次官通知)には、「要保護者(申請者)に扶養義務者がある場合には、扶養義務者に扶養およびその他の支援を求めるよう要保護者を指導すること」とある。 これについて、生活保護問題対策全国会議事務局長の小久保哲郎弁護士は、民法上の扶養義務について触れ、「扶養を求めるかどうかは本来的に要扶養者(申請者)の自由だ。申請者に判断権がある。扶養請求権を行使するよう義務付ける運用自体が、(行政による申請者への)不適切対応の根本的な問題になっている」と述べた。
自治体に「生活保護の受給は“悪”」意識も?
日本の生活保護の捕捉率(受給率)は、保護を利用する資格がある者の2割程度しかない。記者会見では、「生活保護を受給することは悪だという意識が自治体にある。それが(桐生市などで)顕在化した」という声も聞かれた。 小久保弁護士は生活保護の充実への取り組みが進んでいるドイツや韓国の具体例を示しつつ、会見の最後に「日本は生活保護制度の後進国になっている」と、静かに言葉に力を込めた。
榎園哲哉