シャープ退職者を狙うアイリスオーヤマの戦略とは?
先月14日、国内で3500人規模の希望退職を実施すると発表したシャープ。その退職者を、生活用品メーカーのアイリスオーヤマ(本社・仙台市)が虎視眈々と狙っている。同社はシャープ退職者の労働市場への流出を見越し、大阪市の家電開発拠点で来年までに最大70人の技術者を採用する計画だ。日用品大手として成長してきた同社が、シャープ退職者に熱視線を送るのはなぜなのか。
「この機をとらえたい」。取材に応じた同社の大山繁生常務取締役研究開発本部長(62)が、穏やかながらはっきりとした口調で述べる。同社は昨年、大阪市中央区に9階建てビル1棟を取得し、関西での家電開発拠点「大阪R&Dセンター」を拡充した。「ハコはできている。優秀な人材を入れたい」と、来年中に同センターの技術者を現在の約30人から100人まで増やす計画を描く。 プラスチック製品などの日用品製造で知られる同社は、2009年に家電に参入。後発ながらこの5年で、家電部門の売り上げを約4倍の421億円に伸ばした。実はその成長の立役者となっているのは、パナソニック、シャープ、三洋電機などの大手メーカーを退職した主に50~60代のベテラン技術者たちだ。同社はシャープ(大阪市阿倍野区)とパナソニック(大阪府門真市)が大規模リストラを行った2012年に大阪市に開発拠点を開設し、40~50人の退職者を採用。現在「大阪R&Dセンター」の約30人の技術者の大半を、大手家電メーカー出身者が占めている。空気清浄機など生活に身近な軽家電の開発に力を入れており、空調家電で高い技術とノウハウを持つシャープの優秀な技術者は、喉から手が出るほど欲しい人材だ。
当初3、4人の自社社員から始まったという同社の家電開発。シュレッダーなど小物家電の開発から始めたが、家電のノウハウのない同社にとっては試行錯誤の連続だった。大山常務は、大手家電メーカーからの退職者を受け入れることで「ガタガタだった道が、舗装された高速道路になった」と表現する。経験豊富な技術者の入社で、調理家電をはじめとしたさまざまな家電の技術やノウハウが蓄積し、開発スピードも大幅に短縮。ヒット商品になった「ノンフライ熱風オーブン」の開発を担当したのも、パナソニックで長年電子レンジを開発していたベテラン技術者だった。 なぜ大手メーカーが放出した人材によって、売り上げを伸ばすことができるのか。大山常務は大手メーカーの苦戦の理由の一つとして、「中間管理職の比率が高く、開発スピードや効率が落ちて管理コストが膨らみ、利益が出ない構造になっているのではないか」と推測する。これまでアイリスオーヤマが採用した大手メーカーの退職者の多くは、40代後半にものづくりの現場から離れ、管理職として働いていた50~60代の技術者。