「気合いが足りないから」ではない…「朝型・夜型」には"生まれつき"備わった体内時計が影響している
夜型の人が無理して朝型に合わせると睡眠状態が悪化する
早朝出勤が必要なときは社会人として対応するのが当然だ。しかし極端な夜型もしくは夜型傾向の人が、無理してそれに合わせ続ける生活は、弊害が生じるという。 「極端な夜型の人は、がんばって早く布団に入っても眠くなりません。そのため遅く寝て早く起きないといけなくて、短時間睡眠で無理やり起床します。それが続くと借金のように“睡眠負債”が蓄積。 慢性的な睡眠不足を解消しようと休日に昼近くまで眠りますが、体内時計をリセットするために重要な朝の光を浴びるタイミングを逃すため、ますます夜型傾向に。その結果、出勤前日の夜になかなか眠気が訪れず、睡眠不足で月曜を迎えるという悪循環に陥ります」 これとは反対に、極端な朝型の人はゆっくり寝ていたいと思っても朝が来ると目が覚めてしまう。朝型の人が残業をして夜遅く寝たとしても早朝に起きるため、この場合も睡眠不足となり、日中のパフォーマンスが低下する。 「ある程度は遺伝的に決まっているため、極端な朝型、極端な夜型、またそこに近いクロノタイプを持つ人は、真逆の生活スタイルに変えるのは容易ではありません。ですがクロノタイプが『中間型』の人は、努力次第でフレキシブルに変えることができます」 自分のクロノタイプを知る方法として、「ミュンヘンクロノタイプ質問紙(MCTQ)」がある。クロノタイプや個人の体内時計の特性を評価するツールだ。 「MCTQのサイトのセルフチェックから質問に答えていくと自分のクロノタイプ(朝型・夜型)がどの位置なのかわかります。その他、自分に合った自然な就寝時間と起床時間、睡眠不足度、平日と休日の睡眠のズレなどの結果が表示され、睡眠習慣に生かすことができるでしょう」
飲酒・刺激物・強い光は睡眠の妨害に
「寝ても疲れが取れない」「日中にだるさや眠気がある」など、睡眠に問題を抱えている人は、クロノタイプに合う自然な睡眠・起床を取り入れると、悩みが解決するかもしれない。それ以外に現代人の睡眠には、生活の中にちょっとした問題が隠れていると北村さんは指摘する。 「夜の飲酒は眠りを妨げ、睡眠の質を低下させることがわかっています。寝酒が習慣になっているという人は要注意。お酒をやめるだけでよく眠れるようになるでしょう。カフェインやたばこといった刺激物も交感神経を優位にして覚醒作用を上げるNG習慣です。 また、夜に浴びる蛍光灯やスマホ、テレビなどの強い光も、睡眠ホルモンと呼ばれる『メラトニン』の分泌を妨げる原因です。さらに、寝室の温度や湿度が暑すぎたり寒すぎたりするのも睡眠に影響します。少しひんやりした室内温度に、温かい寝具を使うのがおすすめです」 日本人の睡眠時間は先進国で最低レベルといわれている。忙しいと睡眠を犠牲にしがちだが、“質”はもちろん十分な“量”を確保することが大切だ。 「必要な睡眠時間には個人差がありますが、7~9時間の間が理想です。よく5時間や6時間睡眠でも平気という人がいますが、それでは足りていない人がほとんど。休日に平日よりも長く寝てしまう、昼の時間帯に眠気をがまんできないという人は、体からのSOSだと思ってください」 睡眠が不足すると、糖尿病やうつ、認知症といった病気になる割合、死亡率が上がることが明らかになっている。 「働き盛りのみなさんはまだ体力があるので、多少の睡眠不足では病気にならないかもしれません。でも疲労感がある、集中力が低下するといった症状は睡眠に問題があるサイン。今の睡眠習慣のまま年齢を重ねると、シニア世代になったときに病気につながる可能性は十分にあります」 自分に合う睡眠習慣を手に入れた人から、快適に過ごせる体に一歩近づく。「朝型・夜型」を知り、日中の活動や就寝タイミングに取り入れることは、健康な体でいるための “土台づくり”になるだろう。 北村真吾(きたむら・しんご) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部 室長。睡眠の制御・機能や、睡眠障害により心身に及ぼす影響、さまざまな疾患との関係性を明らかにする研究活動を行う。クロノタイプを診断する「ミュンヘンクロノタイプ質問紙(MCTQ)日本語版」の作成・公開に携わる。 取材・文:釼持陽子 編集・ライター。1983年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。
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