中国の定年延長、真の狙いは? 生産年齢人口の減少は無関係◇東京財団政策研究所主席研究員 柯隆
早い人は50歳で定年
中国は、定年退職の年齢を段階的に引き上げることを決めた。中国では、定年が職種によって大きく異なっている。企業勤めの定年が一番早く、女性従業員は50歳、男性は60歳だったのが、それぞれ55歳と63歳となる。公務員は⼥性が55歳が58歳に引き上げられ、男性は今後に決定される。 【ひとめで分かる】中国の高齢者人口の推移 極端な例を挙げれば、毛沢東時代、国家主席に定年はなかった。しかし、改革・開放以降、鄧小平をはじめとする長老たちは毛沢東時代の弊害を反省し、国家主席の終身制に終止符を打った。憲法に、国家主席の「定年」を年齢制限ではなくて、2期(計10年)までと定められたが、習近平政権になってから2018年に憲法が改正され、国家主席の任期制が撤廃された。 中国人の平均寿命は日本ほどではないが、かなり長くなっており、特に健康寿命は延びている。22年から総人口が減少に転じ、高齢化の進展が早まる中、定年を延長することには合理性があると思われる。
年金ファンド、枯渇の恐れ
コロナ禍をきっかけに中国経済は急減速している。その結果、若者の失業率は大きく上昇しており、いかに多くの雇用機会を創出するかが喫緊の課題になっている。こうした現状で定年を延長すると、逆に新規の雇用機会を減らすことにつながる可能性がある。 生産年齢人口の減少に対処するため中国政府は定年延長を決めた、との指摘が日本ではなされている。確かに、総人口と生産年齢人口の減少は長期的な政策課題であるものの、短期的には若者の就職問題に対処する必要がある。 では、なぜ中国政策当局は定年延長を急ぐのだろうか。生産年齢人口の減少とは無関係であり、実情はこうである。コロナ禍の後遺症として地方政府を中心に財政難が予想以上に深刻化しており、このままでは年金ファンドが枯渇する恐れがある。定年延長によって、年金ファンドの資金不足をいくらかでも緩和することができると期待されており、これこそが中国政府が定年延長に踏み切った真の狙いである。