【メタボリックドミノと健康寿命】メタボを放置しておくと次々と重篤な病気を引き起こす 肥満症と診断されたらがん検診を受けたほうがよい理由【専門医が解説】
肥満はがんの発症リスクを高める
2003年に「メタボリックドミノ」を提唱した2年後、日本内科学会など8つの医学系学会が合同でメタボの診断基準を策定しました。内臓に蓄積した内臓脂肪肥満によって高血圧や糖尿病、脂質異常症などが引き起こされるとし、腹囲「男性85cm以上」「女性90cm以上」に加え、「血圧、血糖値、血清脂質のうち2つが基準値から外れている状態」をメタボと定義しました。メタボの患者及びその予備軍は、厚生労働省の調査で1702万人と推計され、増加の一途をたどっています。増加の大半は男性で、男女の人数の差は3倍以上という開きがあります。 一般的に、メタボから糖尿病になると「糖尿病性網膜症で失明する」「糖尿病性腎症で人工透析するようになる」と短絡的に考えてしまいがちです。しかし、糖尿病になるのはメタボの中でも一部の人であり、診断後5~10年放置しておくと症状が悪化し、合併症を起こすケースが多いといえます。つまり、診断から最悪の合併症まで10年程度の時間があるわけで、この間に糖尿病治療と発症原因の肥満症を改善することで進行を抑制することができるのです。同時に、メタボリックドミノの概念図を遡れば、生活習慣病の予防の必要性をイメージすることができます。 メタボリックドミノの概念図についていえば、発表した当時はがんやサルコペニアを記載していませんでした。肥満とがんは結びつきにくいと考えられていたのですが、その後、大腸がんやすい臓がん、子宮がんなどは肥満と関係があることがわかり、記載されるようになりました。過食で内臓脂肪型肥満になると消化器系がんの発症リスクは高まります。肥満症と診断されたら、がん検診を受けた方がいいでしょう。とくにすい臓がんは見つかりにくいので、肥満の人はすい臓がん検診を積極的に考えるべきだと思います。 (メタボリックドミノと健康寿命・後編に続く) 【プロフィール】 伊藤裕(いとう・ひろし)/1983年京都大学医学部卒業。米ハーバード大学・米スタンフォード大学医学部博士研究員、京都大学大学院医学研究科助教授などを経て、2006年慶應義塾大学医学部内科学(腎臓・内分泌・代謝)教授に就任。メタボと生活習慣病、心臓病、腎臓病、脳卒中の関連を明らかにした“メタボリックドミノ”を世界で初めて提唱した。 取材・文/岩城レイ子
【関連記事】
- 《メタボリックドミノと健康寿命:つづきを読む》肥満を出発点とするドミノ進行の主役は“腸と腎臓” 「幸福寿命」を延ばすための考え方とは【専門医が解説】
- 【肥満が原因の糖尿病治療】薬や食事、運動は対症療法に過ぎない 根本治療として「減量手術」が選択肢となる理由【専門医が解説】
- 【糖尿病に効果的な運動と治療】タイプによって糖尿病は様々ある 「隠れ糖尿病」を示す血糖値スパイクのメカニズムとは【医師が解説】
- 【糖尿病を悪化させる歯周病】歯周病原菌の毒素が糖尿病発症や進行につながるメカニズム 特にぽっちゃり型の人が要注意の理由【医師が解説】
- 【突然死を引き起こす生活習慣病のメカニズム】60歳以上で健康に自信があり、健康診断を受けていない人が高リスクという理由【心臓専門医が解説】