本好きが作る、街と人をつなげるフリーペーパー「ほんとこ」 土浦
ちょっと土浦が好きになってきた
「ほんとこ」作りのきっかけは、2022年に城藤茶店で開かれた「まちづくりとデザイン」がテーマの市民向け講座。そこで意気投合した4人が立ち上げメンバーだ。その1人の葛西紘子さんは「土浦で話を聞きたい人に会い、好きな話が聞ければと思ったのが始まり。みんなで聞いた話を共有しようと思った」と言い、同じく立ち上げから参加する稲葉茂文さん(35)は「土浦は個人店が多い町。今聞かないとなくなってしまう」という危機感もあったと言い、「『ほんとこ』は作るのも楽しいが、月1回の読書会が何よりの楽しみ。本の話をするのって、なかなか会社ではできないですからね」と思いを語る。 千部から始まった発行部数も回を重ねるたびに増え、6月発行の第3号は1700部になった。配布先は、メンバーが足を使い、手渡しで広げている。当初はタイトルに沿って土浦市内の書店や喫茶店から始まったが、今ではつくば市やかすみがうら市など周辺地域にも広がり、土浦市内約40カ所、つくば市内約10カ所など県内計約60カ所に設置されている。「配るのをきっかけに店の人と仲良くなるのが楽しみ」という言葉を聞くようになり、その甲斐もあって「街で『ほんとこ』を見つけたのをきっかけに、夫を誘って読書会に参加するようになった」と言う女性や、「カフェに行くと『ほんとこ』がいろんなところにあって気になった」と話す人など、参加する人の輪がますます広がっている。 「土浦に戻って3年目」と話す市内出身の稲葉さんは、もともと本が好きで、都内で古本屋を営み仲間やお客さんと同人誌を作ったり読書会を開いたりしていた。その後、紆余曲折を経て戻った故郷での出会いをきっかけに「ほんとこ」に参加した。「以前は自分でこういう場をつくろうとしていた。こういう活動が好きなんです。色々な出会いがあって、生かされているなと思っている。ちょっと土浦が好きになってきたのかもしれない」と微笑む。 「ほんとこ」は、取材した記事のほかに、メンバーによるコラムなど4~5本の記事が掲載されている。デザインや編集作業などは、メンバーが得意な分野を生かしてボランティアで実施している。立ち上げメンバーの葛西さんは「『ほんとこ』は情報発信が目的ではなく、制作メンバーや設置したお店が、『ほんとこ』を介して人との交流をして欲しいという意図がある。読書会も含めて自分たちが楽しむための活動なので、やりたい人同士で、やれることだけでやっていこうと思っている。もちろん、興味がある方の参加はいつでも大歓迎」と話す。 タイトル名の由来は「本が好きな人はコーヒーも好きでしょう?という緩いものだった」という。「コーヒーを飲んでるときに、良い時間を過ごしながら土浦を知るきっかけになれば」と葛西さんは語る。 SNSでの情報発信が主流の世の中で、「縦書き」「紙媒体」にこだわるのは参加者たちの「本好き」としてのこだわりだ。現在は、半年に1回の発行だが、「いつか季刊にできれば」という思いも抱く。手紙を届けるように手渡しで広がる「ほんとこ」が、土浦の魅力を知らせてくれる。(柴田大輔)