株式市場のユーフォリアを支える米国経済の楽観シナリオに落とし穴
世界の物価上昇率は予想外に低下
年末年始の株式市場は楽観的ムードに包まれた。昨年末の日経平均株価は年末としては、バブル経済期の1989年以来34年ぶりの高値、史上2番目となった。また米国市場では、ダウ平均株価は前年末から14%の上昇となった。1年間の上昇率としては、2017年の+25%に次ぐものだ。 また年明け後の1月9日の日経平均株価は、およそ33年ぶりの高値を更新した。こうした世界の株式市場の楽観的ムードを底流で支えているのは、2021年以降、世界経済の大きな懸念材料であった物価上昇率が、多くの国で低下傾向にあることだ。 ゴールドマン・サックスの推計によると、物価上昇率が急上昇した国々(欧米や一部の新興国)では、食料品とエネルギー品目を除くコア・インフレ率は2023年9~11月に年率換算で+2.2%となった。主要中央銀行が目標とする+2%にかなり近づいたことになる。その結果、多くの国で利上げは終了し、2024年には利下げが実施されるとの期待が高まっており、それが、株式市場の追い風となっている。 ただし、物価上昇率が低下してきているといっても、各国・地域で事情は異なる。消費者物価上昇率が前年比でマイナスとなっている中国は、供給過剰、需要減退という需給の悪化が物価上昇率を下振れされ、デフレ懸念が強まっている。欧州では、エネルギー・食料品価格上昇の一巡に、景気減速の影響が加わることで、物価上昇率は低下してきている。 他方、米国では、供給力の回復が物価上昇率低下の主因と考えられている。新型コロナウイルス問題をきっかけに一時労働市場から退出した労働者が復帰してきたことで、労働供給が回復し、労働需給のひっ迫が緩和されたことや、サプライチェーンの混乱の終息などの影響である。米連邦準備制度理事会(FRB)の歴史的な大幅利上げによる需要の悪化が顕著に表れない中、供給力の回復によって物価の安定が回復されていくのであれば、それはかなり良いシナリオだ。 実際、米国のみならず、世界の株式市場の現在の楽観論を支えているのは、こうした米国経済の楽観シナリオである。