「バントマン」に込めた人生観を野球命の脚本家・矢島弘一が語る
──矢島さんにとっての野球の魅力とは何でしょうか。 「野球が好き過ぎて、一言では語れないのですが(笑)、何だろう…。俗に言う“筋書きのないドラマ”という部分も大きな魅力ですよね。野球って、他のスポーツと比較しても非常に複雑だと思うんです。球種を変えながらボールを投げて、それを打って、出塁してホームベースを目指す。ただゴールを目指すわけではない野球ならではの複雑性が劇的なドラマを生む要因になっているのではないでしょうか。だから野球ファン一人一人に思い出深いシーンがたくさんあるし、それがその人の人生ともリンクしているんだと思います」 ──ご自身のバントの思い出は? 「私の叔父が、早稲田実業の野球部に所属していたんです。同学年に元ヤクルトスワローズの大矢明彦さんがいて、自宅に遊びに来たり、僕の試合を見に来たりされていました。僕が小学校5年生の時に学童野球の試合でスクイズを成功させたことがあったのですが、それも見に来てくれて。試合後に褒められたことを覚えています。それからですね、僕が熱狂的なヤクルトファンになったのは」
──ヤクルトや中日ドラゴンズ、お好きな球団の印象に残っている試合があれば教えて下さい。 「いろいろありすぎて全部は語れないのですが(笑)、古くは荒木大輔さんのプロ入り初勝利から、最近では村上宗隆選手の56号本塁打、そして今年は青木宣親さんの引退試合と、すべて神宮球場で見ましたね。ちなみに中日ドラゴンズに対しては、ヤクルト目線で言うと落合(博満)さんの時代にかなり痛い目に遭ったことが忘れられません。だからなのか、手堅い野球をするイメージがありますね」
──野球を愛する矢島さんが、このドラマを通して伝えたいことは? 「今の時代、日本や世界にはさまざまな問題があって、そこで苦労している人がたくさんいるわけです。ドラマの世界にはそうした人たちに光を当て壁を乗り越えていく物語がとても多く、実際に自分もそんなストーリーを描いてきました。ただ今回は、プロ野球選手のセカンドキャリアといったリアルな話を描きつつも、まずは楽しく見てもらいたいと思っています。物語の展開として突拍子もない部分もありますが、見終わった後に少しでも前向きになってもらえたらいいですね」