【明日は練習に来ますか?】GPシリーズ初優勝・樋口新葉を燃え尽き症候群から救った「恩師の存在」
’22年の北京五輪後の「燃え尽き症候群」
前編記事『【引退も覚悟したが…】逆転で見事なGPシリーズ初制覇・樋口新葉を復活に導いた「新戦略」』では、’22年北京五輪後の長期休養を経て、今年10月のグランプリ(GP)シリーズで復活優勝を果たした樋口新葉(23)の「圧巻の滑り」について取り上げた。 【写真】満面の笑みで! 樋口新葉が演技後に表情で…! 今季のGPシリーズ第1戦となるスケートアメリカで、自身14戦目にしてGPシリーズ初制覇を果たした樋口。紆余曲折のスケート人生を経てつかみ取った1勝について、彼女が秘話を明かしたのは、優勝から一夜明けた10月20日だった。 記者からの「引退が頭をよぎったことはあるか」との問いに笑みを浮かべながらこう述懐した。 「(北京)オリンピックが終わってちょっとしたくらいから、正直『もう無理だ』と思っていた。無理というかできないというか、やっぱり同じ練習量はできないと思ったのと、ケガもあって、何かもうメンタルがずたぼろで、どうにもならない状態だった。それで休養を選んだんですけど、休養というよりかは、そのまま消えようかなと思っていた」 ジュニア時代から「ロケット」と称されるほどのスピード感ある滑りから高難度の連続3回転ジャンプを操った。13歳で初出場した’14年全日本選手権では3位に入り、浅田真央以来となる、中学2年で表彰台に立った。翌年の世界ジュニア選手権も3位。6位に終わった同学年で現世界女王の坂本花織(24)が「新葉には勝てない」と語るほどだった。 しかし、度重なるケガ、体重調整に苦しみ、’18年の平昌冬季五輪の代表をあと一歩で逃した。その雪辱だけを考えてきた4年間。念願の’22年北京冬季五輪出場を決め、燃え尽き症候群のような状態だったという。 ◆恩師からの「檄文」 そんな樋口をもう一度、氷上に戻したのが長く苦楽を共にしてきた岡島功治コーチだ。 「岡島先生から『いつから練習来ますか』ってLINEが来て。とりあえず、リンクに行ってみたら、そこからちょくちょく、先生から『明日は練習来ますか』と連絡が来るようになって……無理やり引き戻された感じでした。一緒に練習している子たちからも『最近、練習してる?』『いつリンクに来ますか』とか連絡が来るようになり、とりあえずリンクに行くように仕向けられました(笑)」 最初はモチベーションも目標もなく、しぶしぶリンクに足を運んでいたが、北京五輪シーズンまでと違い、結果にとらわれずにスケートと向き合う日々を重ねるうちに「だんだんだんだん、面白いかもって思い始めて、そこから戻れるようになりました」と話す。 昨年12月の全日本選手権は12位に終わったが、翌月の国民スポーツ大会で可能性を感じたという。 「全日本の結果で終わりでいいのかっていう気持ちがずっとあって、もちろん、今まで以上の練習ができるかというのは、その時はわからなかったし、正直迷った部分もあったんですけど、国体が次の課題を見つけられるような試合になった。それが“もうちょっとできるかも”って思ったきっかけになりました」 今の目標は12月に大阪で開催される全日本選手権での初優勝。 「いつもそこが目標になっている。昨シーズンと全然モチベーションが変わってきたっていうのも、一つその目標が近づいてきた要因にもなったのかなと思っているし、この優勝で、また強くその目標が見えてきたかなと思います」 と闘志を燃やす。一方で、五輪への思いはまだ湧いてこないという。 「どうしてもオリンピックまでの期間で一区切りに考えられがちなんですけど、そうじゃなくて、一つ一つの試合で結果を残したい」 復活を印象付けた「元天才少女」は、伸びやかに軽やかに自分だけにできる滑りを磨き上げていく。 取材・文:秦野大知
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