「生きた化石」脊椎動物の1位はガーと判明、しかも「ヒトとキツネザル以上」離れても繁殖
桁違いに遅い進化の速度が明らかに、人間の健康に恩恵の可能性も
チャールズ・ダーウィンが1859年に「生きた化石」という言葉を作って以来、多くの種がこの称号を手にしている。けれどもこのほど、脊椎動物ではガーという魚が最もその名にふさわしい生物であることが明らかになった。しかも、他を大きく引き離しての一等賞だ。論文は2024年3月4日付けで学術誌「Evolution」に発表された。 ギャラリー:数億年前から変わらない「生きた化石」 写真5点 ガーは鋭い歯をもつ魚雷のような姿の魚で、長い歳月の間にほとんど変化していないことで知られる。現生の7種のガーには、古代のガーの化石と驚くほど多くの類似点がある。そこで、米エール大学のチェイス・ブラウンスタイン氏とトーマス・ニア氏が率いる研究チームが、481種の脊椎動物の分子進化のスピードを調べた結果、最も進化が遅いのがガーだった。 「何百万年という長い歳月の間、ガーのDNAやRNAの変化のスピードは、シーラカンスやサメなどの典型的な『生きた化石』を含む他の主要な脊椎動物よりも3桁も遅かったのです」と、論文の共著者である米ミネソタ大学の水生生態学者ソロモン・デビッド氏は説明する。
遅い進化と「途方もない」雑種
タイムマシンに乗って1億5000万年前の北米を訪れることができたら、今とはまったく違った世界が見られるだろう。それは超大陸パンゲアが分裂しはじめた頃で、陸上ではステゴサウルスがのし歩き、海では魚竜が泳ぎ回っていた。 しかし、小川に頭を突っ込めば、お馴染みの魚を見つけられるかもしれない。ガーだ。 そんなガーの秘密を解き明かすべく、研究チームはゲノムが公開されている種の系統樹を組み立て、すべての種について進化の過程でタンパク質の情報をもつ遺伝子の分子が置き換わる速度を推定した。 その結果、ヒトをはじめとする有胎盤類の突然変異率が最大で1000万世代あたり約0.02回であるのに対し、両生類では0.007回と、よりゆっくりと進化していることがわかった。 それではガーは? 突然変異率の平均はわずか0.00009回だった。 研究チームは、これに関連した発見についても報告している。ガーは、すべての生物の中で時間的に最も離れた2種の間で交雑できることが明らかになったのだ。これまでの記録を保持していたのは、6000万年前に分岐した2種のシダ植物だった。 例えば、アリゲーターガー(Atractosteus spatula)とロングノーズガー(Lepisosteus osseus)は、今から1億年も前に最後の共通祖先から分岐したが、米国南部で分布域が重なっていて、今でも交雑することができる。しかも、交雑した子孫には繁殖能力があるとデビッド氏は言う。 実際、米ルイジアナ州のニコルズ州立大学の修士課程学生のケイティ・ライト氏は、2024年3月上旬に、米テキサス州のトリニティ川でアリゲーターガーとロングノーズガーの雑種である体長180cmの魚を捕獲した。 この雑種は非常に珍しいが、ライト氏は「吻(ふん)を見れば一目瞭然です」と言い、雑種の吻はロングノーズガーよりも幅広だがアリゲーターガーほどではないと説明する。 米ユタ州立大学の進化生物学者で、遠縁のシダ植物間の交雑を発見したカール・ロスフェルズ氏は、アリゲーターガーとロングノーズガーの交雑は、ヒトとキツネザルの間に繁殖可能な子孫が生まれるよりもさらに途方もないものだと言う。なお、氏は今回の研究には関与していない。