近未来をリアルとして表現、美術・安宅紀史が語る映画「HAPPYEND」の世界
空音央が監督を務めた映画「HAPPYEND」より、美術を担当した安宅紀史のインタビューコメントが到着した。 【画像】“ある種無秩序で色のある空間”を目指して制作された音楽研究部の部室 近未来の日本を舞台とする本作では、幼なじみで大親友のユウタとコウを中心に、卒業を控える高校生たちの友情やアイデンティティの揺れ動きが描かれる。主演の栗原颯人と日高由起刀がユウタとコウを演じ、彼らの友人に林裕太、シナ・ペン、ARAZIが扮した。 1999年に映画「月光の囁き」で美術監督デビューを果たした安宅は、「モリのいる場所」「さかなのこ」「スパイの妻(劇場版)」など80を超える作品に携わっており、今年の公開作では「HAPPYEND」のほか「違国日記」「ぼくのお日さま」「Cloud クラウド」でも美術を担当している。彼は「HAPPYEND」の美術を制作するにあたり、近未来というイメージをいかに作品内のリアルとして表現するかが重要だったと明かし、「あくまでも現在のほんの少し先、またはほんの少し歴史が違うような『並行世界としての日本』というコンセプトで最終的な世界観を監督とともに作っていきました。小道具もどちらかというと普遍的な物、家具や飾りもあまりデザインされすぎてないものを中心にと考えました」と振り返った。 一部のシーンを除き、ほぼすべての場面を兵庫・神戸で撮影した本作。物語の中心となる学校のシーンは、実際の高校が使用されている。主人公たちの唯一のよりどころであり作品のキーとなる音楽研究部の部室は、適した場所が見つからず、最終的には壁とパーテーションで空間を仕切って作られた。学校内の整頓されたグレートーンの空間と差を出すために、“ある種無秩序で色のある空間”を目指したそう。安宅は「せっかく実際の高校で撮影しているのなら、劇中の彼らと同年代の生徒の皆さんにグラフィティや落書きを書いてもらうのがいいのでは、と思い恐る恐る先生方に相談しました。快く賛同いただき、たくさんの生徒さんに参加してもらいました」と舞台裏を明かした。 また物語の象徴的な場所であり、ユウタとコウの分岐点を匂わせる歩道橋の場面では、架空の地名の看板を制作。安宅は「設定的にはコウの住む地域は比較的生産労働者の多い地域、ユウタの住む地域は頭脳労働者中心の高所得層が住む地域で、意識せずともおのずと階層が分かれているようなイメージにしました」と語っている。 「HAPPYEND」で安宅と初めてタッグを組み、その仕事ぶりに感銘を受けた空は「いつもは非常に穏やかで物静かな安宅さんができあがった現場のディテールを見せてくれるとき、目を輝かせて興奮している様子を見て、本当に映画が好きな方なんだなと感じました。その瞬間、こんなにも映画を愛している人と一緒に仕事ができたことを改めて実感し、心から光栄だなと思いました」と伝えた。 「HAPPYEND」は東京・新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開中。なお10月20日、21日には、全国のいくつかの劇場で日本語字幕付き上映が行われる。対象劇場など詳細は映画公式サイトの劇場ページでチェックを。 (c) 2024 Music Research Club LLC