医者は本当に患者の話を聞いているのか…現役医師が明かす「問診」時の知られざる心の内
院長はもっと患者の顔を見てください
最後にもう一つ。現代の医療は電子カルテで行なわれています。電子カルテには利点がたくさんあり、実は患者さんもその恩恵に浴しているのですが、同時に欠点もあります。それは、医者がパソコンの入力に夢中になって患者さんと向き合う時間が減ってしまうことです。 電子カルテは、なるべく文字を入力しなくて済むように、チェックボックスやプルダウンメニューを作って活用しています。しかし、それでもテキストを打ち込む場面はあります。医者がカチャカチャとキーボードを叩いている姿を見ると、患者さんとしては少しがっかりしてしまうでしょう。 私が18年前にクリニックを作ったとき、開業の数日前に予行練習をしてみました。電子カルテの業者さんの監督のもとに、患者さんの受付から診察、そして会計までの流れを実際にやってみたのです。そのときに、業者さんから言われた一言が忘れられません。 「院長はもっと患者の顔を見てください」 こっちは必死になって慣れない電子カルテを操作しているのですから、そんなことは言われたくないと正直思いました。 でも本当に、これを言ってもらってよかったと思いました。以来、私は可能な限り患者さんの顔をしっかり見るようにしています。ですがそれでも、もしかしたら不十分かもしれません。話をちゃんと聞いていないように思われているかもしれません。
患者の声は、医者に届いています
特に診察が終わって、「お大事に」と声をかけたあとは、カルテを急いでまとめるために、患者さんが診察室から退出する様子を見ないことが多いのは事実です。これはやむを得ないと思っていましたが、最近になってそうではないと知りました。 私の妻が通う循環器内科のクリニックの医師は部屋を出ていくときまで、しっかりと目を合わせてくれるそうです。私はそれを聞いて、自分にもできるはずだ、自分もそうしなくてはいけないと反省しました。電子カルテにまとめの記載をするのはこれまで通りですが、グイッと首を曲げて、体はパソコンに、顔は患者さんに向くように最大限の努力をしています。 小児クリニックでは、泣いていた子どもが部屋を出るときに、バイバイをしてくれることがけっこうあるんですよね。電子カルテに夢中でバイバイにお返しができなかったら保護者の方もがっかりしますよね。こういうコミュニケーションの積み重ねがいい医療の基盤になっていくのかなと思います。 「医者ってどれくらい患者の話を聞いているの」って思われても仕方がない一面が医療にはあると思います。そう思われないように、医者はもっと患者さんの気持ちを考える必要があるのでしょう。 ただ、それでも医者というのは、患者さんが思っている以上にみなさんの言葉を聞いています。なぜなら、患者さんの話を聞かないと医療が始まらないからです。
弁護士JP編集部