医者は本当に患者の話を聞いているのか…現役医師が明かす「問診」時の知られざる心の内
患者の不安は、医者のあるある
患者さんの思いと医師の態度がすれ違うことは、実のところたびたびあります。その最大の理由は、患者さんにとって一大事であっても、医者から見れば一大事ではないケースがしばしばあるからです。 咳のしすぎで痰に血が混じるというのは、医者の側からするとけっこうよくある訴えなのです。嘔吐のときに、血が混じることもときどきあります。咳によって喉の粘膜が切れたり、嘔吐によって食道と胃の間の粘膜が切れたりするからです。 だけど、一般の人はそんなことは知りません。びっくりして医者のところに駆け込みますよね。確かに、今回のケースでは、医者の態度は患者さんにとってちょっと不親切だったように私には思えます。
質問していないことまで話す患者
患者さんが「この医者は自分の話を聞いてくれているのか」と思うことは、こうした医学知識のギャップからだけではなく、実は日常的にけっこうたくさんあるのではないかと私は思っています。 たとえば、風邪です。風邪には始まりがあり、最も悪い時期があって、治っていく時期があります。言ってみれば風邪のシナリオですね。このシナリオから外れた場合、風邪は肺炎に変化したりします。ですので、医者は患者さんから、風邪が現在、シナリオのどの段階にいるのかを聞こうとします。 ところが患者さんが少しでも細かく情報を伝えようと、何時に熱が何度で、何時に解熱剤を飲んで、その後に汗をかいて、少し食事をとって、また熱が上がってきて、顔が少し赤くなり……と医者が聞きたいシナリオとは関係のないことまで話すことがあります。患者さんとしては、自分の状況を伝えたいわけですから、当然のことですが、医者が知りたいことは全体の大きな流れなのです。 ここにすれ違いが生じてしまいます。 みなさんは熱型表という折れ線グラフを知っていますか? 横軸が日にちで縦軸が体温です。私のクリニックでは、3日以上熱のある人にはこの折れ線グラフを記入してもらっています。 そうすると、全体の流れが分かるのです。この熱はピークを過ぎたとか、まだまだ上がるぞとか、熱が長すぎて肺炎が心配とか。 患者家族にはちょっと面倒に感じるかもしれませんが、これを書いてもらうだけで、風邪がいまどこのステージにあるのかが分かります。医療は原則的に未来を診察することはできませんが、熱型表を書いてもらうと、未来の予測が立つのです。 私はこの熱型表を大いに参考にしていますが、その分、患者さんの話を聞いていないように見えてしまうかもしれません。患者さんの言いたいことと、医者が知りたいことの間にズレがあるので、「この医者は話を聞いてくれない」と思われてしまう可能性はあると思います。 こういうギャップは医師の側が埋めていくテーマですよね。でも前項で述べたように、短い診察時間ではどうしてもポイントを絞って聞きたくなってしまうのです。