【アイスホッケー】「41歳、GKとして日々うまくなっている。 その実感があるうちは、やめたくないな」福藤豊(HC栃木日光アイスバックス)全日本アイスホッケー選手権MVPインタビュー
バックスの「気力」を維持できたのは 悔しさを持ち続けてきたことと集中力 ――準決勝が終わって、20時間後に東北フリーブレイズとの決勝を迎えました。1ピリ13分、バックスが古橋真来選手の先制点の後、16分にフリーブレイズが同点に。2ピリ29分には再度、古橋選手が勝ち越しゴールの2点目を上げますが、直後、バックスはダブルマイナーで4分間のPKを与えてしまいます。 福藤 今までで一番キツかった全日本選手権だったかもしれないですね。変則的な試合時間もそうですし、すごく精神的にキツい2試合だったと思います。僅差の試合をゴーリーが守るというのは、相当、ストレスがたまるんですね。だからこそ、ファンの人の声の後押し、それが本当に大きかったです。 ――そのダブルマイナーの反則で、最初のペナルティーキリングで同点になったものの、続く2分間はフリーブレイズに3点目のゴールを許しませんでした。これが、この試合の最大のポイントだったように思います。 福藤 僕の守りというよりも、あの場面で3点目を失わなかったことはチームにとって本当に大きかったと思います。イーブンになるのは、まあいいんですよ。でも、これが勝ち越しゴールを許すとなると、今度は一気に流れが相手にいってしまうこともありますから。 ――フリーブレイズはニュートラルとDFゾーンで中を固めていて、これにはバックスも手を焼いていましたね。ところが3ピリの50分、このピリオド両チーム唯一のPPで、バックスに待望の3点目が生まれました。バックスのシステムは1:3:1だと思うのですが、寺尾選手がいったん高めの位置でパックをキープし、そこから速いショットで、ゴール前の磯谷奏汰選手がディフレクションを流し込みました。このPPユニットは、スピードがあって鮮やかでしたね。 福藤 たとえば相手にボディレシーブが出ると、そこで攻めのリズムが崩れてしまうのですが、あれは本当にスピードに乗った、いい形の攻めだったと思います。 ――3ピリ残り3分くらいからフリーブレイズの猛攻があって、しかし福藤選手は最後の一線を割らせませんでした。それが59分、大椋選手のエンプティでのゴールにつながります(最終スコアは4-2)。 福藤 もう最後は「絶対優勝するんだ」という気持ちしかなかったですね。全日本選手権は気持ちと気持ちのぶつかり合いというか、よく「相手より勝ちたいと思うチームが勝つ」と言われますけど、本当にその通りだと思うんです。負けたほうのチームにしたら、その悔しさを晴らすのは、もう1年後の全日本しかない。最後の最後までバックスの「気持ち」を維持できたのは、その悔しさがあったからと思います。 ――話は変わりますが、福藤選手が出場していない東洋大との2回戦は僅差のまま終盤になって、特に3ピリは攻められる時間が長く「もしかしたら…」という予感もなくはなかったような気がします(バックスのエンプティを含めて4-2)。福藤選手が、ドレスなしでこの大会を終える可能性もあった。ただバックスとすれば、土曜日からのトップリーグとの試合を前にして、金曜日は「夜20時30分開始」、しかも「学生が相手」と、気持ちを整理することが難しかったかもしれません。 福藤 さすがに20時30分開始の試合と、翌日は14時半開始の試合を連戦でこなすのはキツかったと思います。自分も上から見ていて、東洋大戦は本当にドキドキしましたよ。大学生を相手に負けることは、過去にバックスも経験していることですからね。(先発出場のGK)大塚一佐も内心、怖かったろうなと思います。 ――藤澤悌史監督は優勝を決めた後、涙ぐんでいるようにも見えました。福藤選手にとっては釧路・景雲中学校の先輩でもあります。 福藤 ほっとした部分も、藤澤監督にはあったと思います。昨年も全日本選手権の前に、2週間ほど試合のない日があったんですよ。前年の全日本選手権の反省として、「レストすることに集中し過ぎた(休息を取ることに神経を使い過ぎた)」と監督は言っていたんです。だから今年は「練習でプッシュする」と。大会前は練習を厳しくして、シーズンを迎える時と同じくらいハードにやったんですね。だから今年は、3試合ともに体力もあったし、集中力も切れなかったんだと思います。 ――昨季、併用でGKを務めていた選手がチームを抜けて、福藤選手は41歳で、土・日の連戦をこなさなくてはならなくなりました。 福藤 今季は連戦で出ることが多くなりましたけど、これまでも「試合に出たい」という気持ちは自分の中ですごく強かったんです。おかげさまで、やりがいのあるシーズンを送れているというか、現役をずっと続けてきて、30代後半あたりになっても「まだまだ自分はうまくなっているな」という実感があることに気がついたんですよ。 ――「まだ、うまくなっている」。そういうフレッシュな意欲が41歳の今でもある、と。 福藤 そうです。無駄なものが削ぎ落とされていくといいますか、アイスホッケーに関する考えとか、自分の中の「変化」を楽しめている。それがあるうちは、自分では現役にこだわりたいな、という思いが強いですね。