【追悼】『トトロ』から『ポニョ』へ、中川李枝子が宮崎駿に与えた影響
10月14日(月)、『ぐりとぐら』などの不朽の名作を執筆したことで知られる児童文学作家の中川李枝子さんが老衰で死去した。89歳だった。 映画『となりのトトロ』の主題歌「さんぽ」の作詞を手がけるなど、宮崎駿監督との親交でも知られる中川李枝子さん。『トトロ』以降も様々な形でスタジオジブリ作品に影響を与えた中川李枝子さんの歩みを、今一度振り返ることにしよう。 【関連画像】『となりのトトロ』『くじらとり』中川李枝子さんと関わりのある作品の場面カットを見る(画像3点) ◆『となりのトトロ』の主題歌「さんぽ」の作詞◆ これまで何度もテレビ放送され、そのたびに高い視聴率を記録する国民的アニメ映画『となりのトトロ』。スタジオジブリ作品のオープニング映像にも採用されていることもあって、「ジブリ」と言われればトトロを思い出すほどの看板的なキャラクターだ。 そんな『トトロ』人気の一端を支えていたのが、主題歌の「さんぽ」だろう。「あるこう/あるこう/わたしは元気」から始まる快活なテンポもさることながら、口をついて出るような歌詞も魅力で、1996年からは小学校全学年の音楽教科書に巻末の全校合唱として掲載され続けるなど、まさに国民的なヒット曲だ。 その作詞を担当したのが中川李枝子さん。港区表参道で2011年5月に実施された阿川佐和子とのトークショーでは、作詞の経緯について「宮崎監督がわたしの絵本『いやいやえん』が好きだということで、『となりのトトロ』の(楽曲の)詞を書いてくれということになったの。光栄でしたね」と回想している。 宮崎駿の日課だという散歩や、2022年にオープンしたジブリパークのコンセプトでもある「さんぽ」。そんな散歩がもたらす開放的なイメージを見事に詩にしてみせた中川李枝子さんの「さんぽ」が、スタジオジブリに与えた影響は計り知れない。 ※「宮崎駿」の「崎」は「大」の部分が「立」になる字が正しい表記。 (C)Studio Ghibli
『ポニョ』からジブリ美術館の短編映画まで、『いやいやえん』が与えた影響
◆中川さんの『そらいろのたね』が、スタジオジブリ初の短編作品に◆ 1992年には、ついに中川李枝子さんの作品がスタジオジブリによってアニメ化された。題材になったのは『そらいろのたね』(福音館書店、1967年)で、日本テレビ開局40周年を記念して作られた。 『そらいろのたね』において絵を担当した大村百合子さんのデザインをそのままに、各話30秒、全3話で構成された本作は、原作ではページごとに巨大化していく建物の様子をそのまま連続したアニメーションとして描いたことで、原作とは違った快感を持つ作品となった。 ◆『崖の上のポニョ』のモチーフにもなった中川李枝子さんの『いやいやえん』◆ 『いやいやえん』(福音館書店、1962年)は、中川李枝子さんの処女作で、こちらも大村百合子さんが絵を担当した、全7話で構成される短編連作童話集。当時保育士だった中川さんが、保育園に通う第一次反抗期の男児を主人公にして書いたものだ。 この作品が宮崎駿に与えた影響はすさまじかったらしく、2014年に行われた『ぐりとぐら』誕生50周年記念イベントに出席した宮崎さんは、「学生のときに読んでいて、これをアニメーションにしたいと思いました」と語っている。 そんな『いやいやえん』をアニメ映画にする企画も、たしかに持ち上がったようだ。 『ロマンアルバム 崖の上のポニョ』(徳間書店、2008年)によれば、『ハウルの動く城』公開後、次回作の題材について宮崎さんから問われた鈴木敏夫プロデューサーが『いやいやえん』と答え、実際に中川さんと交渉することになった。そこで提出された企画の名前は『崖の上のいやいやえん』で、まさに『いやいやえん』を題材にした作品となるはずだった。 企画自体は途中で転換したものの、その名残りである『崖の上のポニョ』には保育園が登場し、『いやいやえん』の面影をにおわせるものにはなった。 ただし、『いやいやえん』の一部はスタジオジブリによってアニメとなった。三鷹の森ジブリ美術館の映像展示室「土星屋」で上映されているオリジナル短編アニメーションの『くじらとり』は、『いやいやえん』の一編を忠実にアニメ化したものになっているのだ。また、「土星座」で上映されている『たからさがし』の原作も中川李枝子さんの作品のひとつだ。 宮崎さんが作品制作に取りかかるとき、彼の頭にはいつも中川さんの作品が浮かんでいたと思う。児童文学界はもちろん、アニメーション業界にも多大なる影響を与えた中川さんの偉業を深く記憶したい。 そして、あらためて中川李枝子さんのご冥福をお祈りします。 ※「宮崎駿」の「崎」は「大」の部分が「立」になる字が正しい表記。 (C)Studio Ghibli
アニメージュプラス 編集部