「月の儲けは15万」日本の図書館の雑誌から無断転載し、化粧品を転売… 「中国人転売ヤー」のリアルな日常
雑誌を無断転載し商材に
彼女が小紅書を使った転売ビジネスに参画するようになったのは、コロナ禍がきっかけだった。日本の大学を卒業したのち、東京にある中国系の不動産会社で4年ほど賃貸物件の営業職に就いていたのだが、2020年のコロナ禍の影響で物件を探す人が激減してしまった。それまで収入の半分近くを営業コミッション(成果報酬)で稼いでいた彼女にとって、これは文字通りの死活問題だった。 2020年夏には、彼女の会社でもテレワークが認められたが、どこにいようとやるべき仕事はほとんどなかった。カネを使わずに有り余る時間を潰すには、スマホが一番手軽だ。日がな一日スマホをいじる生活を続ける中、彼女の興味を引いたのが小紅書でのライブコマースだった。同年代の在日中国人が動画の生配信で紹介する日本製フライパンが、母国でロックダウンや人流制限策のなかで暇を持て余している同胞たちに2倍近い価格で飛ぶように売れていたのである。 一念発起したLは、人気のある在日中国人配信者のアカウントを複数フォローし、分析を開始する。すると、成功を収めているアカウントにはいくつかの特徴があることがわかった。 まずはアカウントのテーマが明確であることだ。アニメもスイーツもファッションアイテムもといった具合に複数のコンテンツを取り上げるアカウントより、特定のテーマに絞って投稿しているアカウントの方が、フォロワーが多い傾向にあった。フォロワーとの密なコミュニケーションも重要のようだった。1000人以上のフォロワーを持つアカウントの多くは、1日数回は写真や動画を投稿することはもちろん、フォロワーからの質問に答えるなどして信頼関係を構築している。また、一時爆買いの対象として話題となった医薬品分野は、扱うアカウントが多すぎるためか、飽和しているように見えた。 研究結果も踏まえ、彼女はまず、美容関連品に特化したアカウントを開設することにした。ある程度の知識や興味がある分野で戦う方が、ハードルが低いと考えたためだ。中国の地方都市で青春時代を過ごしたLは、来日前はほとんど化粧をしたことがなかった。日本に来て、彼女は日本製化粧品の品揃えの多さに目を奪われた。特に魅力的だったのは、アイシャドウや口紅のパッケージデザインである。どれもまるで宝石や高級菓子のような凝ったもので、中国にいた時に見た化粧品とは全く異なっていた。彼女は、収集欲を満たすために気に入ったデザインの化粧品を買うようになった。化粧品が手元にあると、肌につけてみたくなるものである。大学を卒業する頃には日本風の化粧も一通り覚えた。 新設したアカウントで最初に投稿したのは、アラサーを対象とする日本のファッション雑誌の美容ページの写真だった。そこで日本のモデルが語るメイクアップの秘訣と、愛用の商品についての内容も翻訳して添えた。著作権の侵害だが、これは、同様の手法でフォロワーを獲得しているファッションアイテム系のアカウントに倣ったものだ。文章を書くのが苦手な彼女にとって、雑誌の内容を転載するだけでいいというのは都合が良かった。 すると投稿から2日後には、40件以上の「いいね」がついていた。フォロワーも100人程度獲得することができた。Lはこれに味を占め、図書館でありとあらゆる女性誌の美容ページをスマホカメラで撮影し、それらを小分けにして1日2~3回ずつ投稿していった。アカウント運営を3週間ほど続けると、フォロワーは400人ほどに増えていた。 この頃になると、投稿からの注文がポツリポツリと入るようになっていた。「オペラ・リップティント」という名のリップが、彼女が最初に小紅書で転売した商品となる。