ディーン・フジオカの誰にも真似できないおかしみ 天賦の才と真面目さが圧倒的魅力に
今、日本でもっとも華麗にトンチキをキメられる俳優はディーン・フジオカその人である。 【写真】“バチェラー”として『おっさんずラブ』に出演のディーン・フジオカ 初めて俳優としての彼を認識したのは、2015年に放送された北川景子主演のドラマ『探偵の探偵』(フジテレビ系)桐嶋役。作品がシリアスモードだったこともあり、この時はまだディーン様の内側に秘められたおかしみモードには気づけなかった。ただ、福島県出身にも拘らず当時の名義がDEAN FUJIOKAだったことから、タダ者ではない香りを嗅ぎ取ったことは記しておきたい。 そして『探偵の探偵』放送終了とほぼ同時に、ディーン・フジオカの名が日本中に轟く事態が起きる。そう、NHK連続テレビ小説『あさが来た』(2015年度後期)で、ヒロイン・あさ(波瑠)のソウルメイトであり、ビジネスにおける師でもある五代友厚役での露出がスタートしたからだ。幼いあさと偶然出会ったことを機に、彼女がピンチになるとどこからともなく現れ、「ファーストペンギン」「カンパニー」と明治の人にとっては未知の言葉を素敵なイントネーションで発しつつ、完ぺきにヒロインをサポートする姿に多くの視聴者が魂を持っていかれた。「あのビジュアルで見つめられたら私も絶対ヤバい、新次郎さんごめんなさい!」と、あさの姿に自らを重ねる妄想で1日のエネルギーチャージをした人も多かったと思う。 五代は実在の人物をもとに書かれたキャラクターのため、当然、死期は決まっていたが、作中で圧倒的な人気を誇った状況を受けて製作サイドは脚本を変更。ファンは約1カ月五代様に会える期間が伸びた。この時は五代という役がそもそも他の人とは異なる存在だったため、ディーン様が宿すそこはかとないオモシロと役の設定が最高の形でケミストリーを起こしたものと記憶している。 「あれ、この人、やっぱり面白いよね?」と再認識したのが2018年の『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)。タイトル通り、アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』の世界を現代日本に置き換え、主人公の柴門暖がモンテ・クリスト・真海と名前や身分を変えて自分を裏切った者たちに復讐していくストーリーだが、いくら原作があるとはいえ、田舎町の気の良い漁師だった青年がスーパー投資家になり、綿密な計画のもと復讐を遂行する展開には無理があった。 が、違うのだ、聞いてほしい。この無理がある設定を難なく自分のものにし、他の誰にも真似できない表現として成立させられるのが俳優ディーン・フジオカ最大の武器であり魅力なのである。 ここで少し時を飛ばそう。現在、放送中のNHKドラマ10『正直不動産2』で彼が演じるのは、主人公・永瀬(山下智久)の不動産売買におけるかつての師匠・神木。詐欺に近い手口で取引をしていたことが明らかになって業界を追われホームレスをしていたが、今は永瀬が勤める登坂不動産のライバル会社、ミネルヴァ不動産に拾われ、クリーンでない方法で物件仲介を行っている謎多き男だ。 事件は第2話で起きた。12年前の回想シーンで、当時トップ営業マンだった神木は不動産営業のコツを伝授しようと新人の永瀬を街に連れ出す。まずは外見や住居から理想の自分を演出し、ビジネスに結び付けることが必要と心理学の“拡張自我”を説いて永瀬に70万円超えのスーツを買わせる神木。ここまではいい。だがその先がヤバい。同じく心理学の応用で“ミラーリング”の説明をするため、高級一軒家フレンチのフロアに躍り出て神木はいきなりタップを踏み出す。「俺の動きを真似てみろ」。躊躇する永瀬や店のスタッフの注意をものともせず華麗にステップを踏み倒す彼の笑顔はキラキラと輝き自身に満ち溢れていた。 なぜ、ミラーリングの説明をするため神木にタップを踏ませるのか、それも長尺で。その答えは明確である。ディーン様ならあのトンデモともいえる表現を完璧に魅せ、説得力すら生み出すポテンシャルを持っていると製作側が確信していたからだ。考えてみてほしい。ああいう突き抜けた場面はそれを背負いきれない俳優が担うと痛々しさしか残らない。が、ディーン様はビジネスシューズで美しくタップを踏み、凄いの先にあるトンチキまで表現を昇華させた。まさに、永瀬が発した通り「イカれてる」ワケだ。わかってるなあ、脚本と演出! さらに今や国民的人気ドラマといっても過言でない『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)では劇中で放送される恋愛リアリティ番組にて“伝説的バチェラー、ラガーフェルド・翔”としてカメオ出演することも発表された。「スイスの王族の血を引いているが日本の一般家庭で育ち、現在は貿易会社の社長兼投資家として莫大な財産を有するペンタリンガル。趣味は盆栽鑑賞と琴の演奏」という盛り盛りなプロフィール。アノ実在のリアリティ(?)番組お約束の胡散臭いバチェラー設定をそのまま体現するキャラクターだが、これもディーン様が演じるとなると不思議な説得力がある。 どんな作品や役柄でもご本人にはおそらく「面白く(コミカルに)」見せるつもりなど一切なく、いきなりレストランでタップを踏もうが、パロディの中で思いきりデフォルメされた人物を演じようが、至極真面目に作品や役と向き合って真摯に演じているのだろう。だが、シチュエーションによってはそのストイックさがとてつもないおかしみと説得力を生み出す。これこそディーン・フジオカが俳優として宿す最大の武器であり、唯一無二の表現である。最上級のトンチキは天賦の才と真面目さが掛け合わさったその時にこそ生まれるからだ。 ディーン様、どうかこれからもあの真面目さ溢れるトンチキで、私たちをキュンと脱力の狭間で翻弄し続けてください。本当に、大好きです。 (文=上村由紀子)
上村由紀子