レディース暴走族のトップで覚醒剤の売人だった女性は、改心し「みんなの母親」目指す(上) 何度裏切られても、刑務所や少年院を出た社員を雇い続け…
▽憧れた食卓 「おいしいご飯を食べて怒る人はいない。食卓を囲むのは更生のカギ。腹を割って話せるし、一番大切にしている」 大伸を始めた時から、みんなで一緒に食事をする憧れもあり、社員に夕飯を振る舞ってきた。 7月のある日の午後7時ごろ、田村竜也さん(36)ら現場帰りの屈強な社員らが、広瀬さん宅にやってきた。田村さんは笑顔で話す。「おじゃましますではなく、ただいまなんです」 包丁を握るのは社員の佐藤美幸(43)さん。元受刑者だ。その横で、筋肉質の男らもフライパンを握る。一汁三菜のバランスの取れた料理に、大盛りのご飯。日に焼けた顔をほころばせながら、仕事の話に花が咲く。 田村さんは言う。「社員のみんなで食卓を囲むと、上下関係を気にせず身内感覚でいられる。お母さんが作る味」 毎日5~15人ほどが入れ代わり立ち代わり食べにくる。かつてのように広瀬さんが料理することもある。 ▽裏切り
社員の多くが、虐待を受けたり、施設育ちだったり、親がいなかったりの家庭環境だ。 「1人では更生できない」。それが広瀬さんの実感だ。家庭環境や、出所後の孤独にも共感できるからこそ、一人一人の話に耳を傾ける「母親」として、一緒に過ごす時間を大切にしている。 だが、そんな「わが子」に裏切られることも多い。 ▽再犯社員も「家族」 「5年ほど働いて信用してた社員が、前借り金を持って逃げた…」 社員から暴行を受けて肋骨を折ったことがある。別の社員は会社の車で当て逃げをした。会社名を不正利用されたこともある。社員が万引をした時は、菓子折りを持って一緒に謝罪へ。 せっかく大伸に入ったのに、すぐ辞めてしまう人もいる。実際、記者の取材にしっかりと答えてくれたある男性社員も、突然いなくなってしまった。 「心が折れそうになる。でも、私も社員に支えてもらっている。独りぼっちだったら私もまた刑務所に入っていたはず。社員というより、家族や仲間。私が守る」
裁判の情状証人や、連帯保証人になることもある。 「守ろうとしてくれる人がいるといないでは、全然違う。私は甘えたかったし、心配してほしかった。自分がしてほしかったことを今、している」 何度裏切られても、広瀬さんはめげずに出所者を雇い続ける。気になったのは、広瀬さんが過去を語る口ぶりに、どこか反省を感じられない部分があったことだ。記者がその点を追及すると―。(下に続く)