犯罪被害給付金の引き上げ決定、15日から改正実施 最低額が3倍に
犯罪の被害者や遺族に国が支給する給付金を増額する改正法令が11日、閣議決定された。殺人などの被害者の遺族に払う遺族給付金は多くの場合、最低額がこれまでの320万円から1060万円に引き上げられる。改正は今月15日から実施され、それ以降に起きた犯罪による被害が対象になる。 遺族給付金は、被害者の収入をもとに年齢に応じた基礎額を出し、それに生計を同じくしていた遺族(生計維持関係遺族)の人数に応じた倍数をかけて算定する。このため死亡した被害者に収入がなかった場合、給付額が低くなってきた。 今回の改正では、被害者に生計維持関係遺族がいない場合の基礎額の最低額を、3200~5300円から一律6400円に引き上げる。公害健康被害補償制度の遺族受給額と同水準にしたという。 さらに、遺族給付金を配偶者や子、父母が受給する場合、基礎額を一律4200円加算する仕組みを導入した。遺族の多くが該当する。遺族が受けるショックや経済的打撃をふまえた。交通死亡事故の自賠責制度で遺族に支給される慰謝料を参考に算定した。 これにより、被害者が収入のない20歳未満の場合、親などに支給する遺族給付金はこれまでの320万円から1060万円に増額される(=表)。 また、障害が残った場合の給付金や、重傷病を負った人への給付金における休業加算額の最低額も引き上げる。 警察庁は、こうした内容の犯罪被害者等給付金支給法施行令改正案について4月下旬から1カ月間、パブリックコメントを行い、被害者団体や一般の人から14件の意見が寄せられた。被害者の収入や年齢にかかわらず支給額を決めるべきだとの意見や、改正施行前の被害にも適用すべきだといった声があったという。 これに対し警察庁は「犯罪被害者が受ける影響は一様でないことをふまえ、他の公的給付制度も参考に最低額を設けている。いつまでさかのぼるかの基準を設けるのが困難だ」などとして、原案から修正はしなかった。また、加害者の損害賠償債務を国が被害者に立て替え払いする制度や、犯罪被害者支援を専門に担う省庁の設置を求める声もあったという。 警察庁のまとめでは、遺族給付金は2023年度、143件、計約10億1千万円の支給が決定された。平均支給額は約707万円、最高額は約2590万円。今回の改正に伴い、年間の支給額は数億円程度増えるとみられる。(編集委員・吉田伸八) ■遺族給付金の増額のモデルケース 【ケース(1)】 被害者:6歳男児(収入なし、生計維持関係遺族なし) 受給者:父母 現行:320万円 → 改正案:最低額引き上げで640万円に増額、新たな加算分420万円=計1060万円 【ケース(2)】 被害者:55歳の会社員男性(年収550万円、生計維持関係遺族が妻、子ども1人) 受給者:妻(配偶者) 現行:約2120万円 → 改正案:新たな加算分約844万円が増額され、約2964万円 【ケース(3)】 被害者:36歳の主婦女性(収入なし、生計維持関係遺族なし) 受給者:夫(配偶者) 現行:530万円 → 改正案:最低額引き上げで640万円に増額、新たな加算分420万円=計1060万円 (警察庁の公表資料や取材による)
朝日新聞社