19年ぶり快挙 涙の“父子優勝”【舩越園子コラム】
「RBCカナディアン・オープン」は、スコットランド出身の27歳、ロバート・マッキンタイアが父親ドギーをキャディとして携え、見事、PGAツアー初優勝を挙げた。父も息子も、うれし涙があふれて止まらず、言葉にならない様子だった。 あふれる涙が止まらない…【写真】 PGAツアーにおけるスコットランド出身選手の優勝は、サンディ・ライル、ポール・ローリー、マーティン・レアード、ラッセル・ノックスに続く史上5人目となった。レフティ選手の優勝は史上16人目に当たる。 そして、父と子による優勝は、2005年に「サンダーソン・ファームズ選手権」を制したヒース・スローカム(米国)父子以来、実に19年ぶりの快挙である。 マッキンタイアの父親はレギュラー・キャディではなく、今大会開幕直前に急きょ、バッグを担ぐことになった臨時キャディだった。そして、うれしい初優勝となったところに、不思議な巡り合わせを感じずにはいられなかった。 マッキンタイアはDPワールド(欧州)ツアーで2020年と2022年に勝利を挙げた実績がある。昨年は「ライダーカップ」の欧州チームメンバーにも選ばれ、初出場ながら大活躍を見せて大きな話題になった。その際、幼いころから憧れてきたジャスティン・ローズ(イングランド)から「生涯、忘れない大事なものをもらった」そうだが、それが何かは「秘密だ」そうで、米欧メディアにも「何か」の正体は明かさなかった。 昨年は日本の久常涼と同様、DPワールドツアーのポイントレースであるレース・トゥ・ドバイでトップ10入りを果たし、今季のPGAツアー出場資格を獲得。すでにトップ10入りが3回と成績は上昇中で、「全米プロ」では8位タイと大健闘だった。 今週は、初日に首位から2打差の4位で発進すると、2日目は首位タイに浮上。3日目は前半で崩れかけたが、バッグを担ぐ父親から「これまで何をどれだけ練習してきたかを思い出せ」と言われ、「ハッと我に返った。そもそも今週は無欲で臨んでいるのだから、何も怖がる必要はない。そう思ったら、気持ちがすっかり落ち着いた」。 その言葉通り、後半はしっかり持ち直して、リーダーボードの最上段を維持し、2位に4打差で最終日を迎えた。 それでもやっぱりPGAツアー初優勝がかかるサンデー・アフタヌーンの雰囲気に飲まれたのか、1番はボギー発進。しかし、4番、7番、8番、11番とバーディを重ね、この時点で2位と4打差をつけていた。 しかし、12番、13番の連続ボギーで2位との差は2打へ縮まった。15番でバーディを奪い返したものの、最終組でともに回っていたベン・グリフィン(米国)に追い上げられ、最終ホールを迎えたときは、1打差まで迫られていた。 だが、マッキンタイアは父親と綿密に距離や番手を話し合い、落ち着いた様子で放った第2打はピン3メートルへピタリ。圧巻のショットだった。その瞬間、勝利に大きくにじり寄ったことを確信した父と子は、絶妙な呼吸でグータッチを交わし合った。 着実にパーパットを沈め、それがマッキンタイアのウィニングパットとなった。 「うれしすぎて言葉が出てこない。まさにスピーチレスだ。うれしくて、泣けてくる」 マイクを向けられたマッキンタイアは、何度も手で涙を拭いながら、なんとか、そう言った。インタビュアーがマイクを父親へ向けると、それまでは、うれし泣きする息子をほほ笑みながら見守っていた父親も、口を開いた途端、想いが込み上げ、涙を流した。そんな父親の頭を息子が優しく撫でた場面に、父と子の愛があふれ返っていた。 「スコットランドの家族や友人、コーチ、そして僕のガールフレンド。みんなのサポートがあったからこそ、勝つことができた。本当にありがとう」 そう語った姿には、すでにルーキーらしからぬ貫禄が漂っていた。またひとり、これからが楽しみな選手が増えた。 文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)