太平洋を渡る「毛むくじゃらの外交官」パンダが中国から渡米する意味
■「外交官」の渡米は“絶妙なタイミング” 「毛むくじゃらの外交官」。パンダを外交官に見立てたこの表現のニュアンスは、単に「愛くるしい希少動物」というだけではない。「白と黒の、見た目の愛くるしさ」の下に隠された本音、したたかな思惑を抱いた「辣腕の外交官」という、皮肉もこもっているように感じる。だから「毛むくじゃらの外交官」という表現は、的を射ている。「毛むくじゃら」に隠れた部分は何だろうか? そう考えてしまう。 中国政府は、自分の国との関係強化、イメージアップのために、莫大なカネを投じている。その一つとして、パンダを使って、相手国が抱くイメージをよくしようというのは、中国の伝統的な手段だ。日本に来たパンダもそうだ。「パンダ外交」という表現も中国にはあるが、パンダの貸し出しに勝る効果を上げる方法はないだろう。 「学術・研究のため」と強調しているが、やはり、真の狙いはアメリカとの関係をよくしたい。そのためには、アメリカ国民の心情に入っていくのが有効だ、ということだ。 合意のタイミングも、パンダが大好きなアメリカ人をジリジリとじらしてきたようにも見える。習近平主席の訪米から半年。そして、貿易摩擦、台湾や南シナ海、ウクライナ戦争を続けるロシアへの対応…などで、米中対立がさらに激しさを増す。なにより、4年に一度の大統領選挙が11月に迫り、選挙戦は、中国との向き合い方も重要テーマ。その大統領選挙の結果が出る11月に、パンダがやってくる。 表向きは「学術・研究のために貸してあげる」というものの、思惑が働く中国。パンダが戻って来るのを心待ちしていた首都ワシントンの市民。そして、中国のソフト外交を警戒するアメリカ政府…。2頭のパンダに、さまざまな思いが交錯するようだ。 ■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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