大根仁が語る「地面師たち」と「演出家の仕事」 「50代以降は誰かのためになるような仕事をしたい」
あとは、17年からキリン一番搾りのCMの演出をやっていて、それが意外と自分の中では大きいです。CMの仕事は、ドラマや映画とは目的からしてまったく違うものなので、演出家としての自由度は少ないのですが、スタッフィングはそれなりに自由にできるんですよ。なので、これまで頼みたかったけど機会がなかった撮影監督や照明技師の人たちとCMの現場で初めて仕事をすることができて、だいぶいい経験になってますね。
――「地面師たち」で再び企画から脚本・監督までを務めたのは、依頼仕事をしていく中で、もう一度企画から最後まで自分が関わる仕事をしたい、という思いがあったからでしょうか。
大根:いや、正直なところ、きれいごとに聞こえるかもしれませんが、自分が一番喜べる仕事はもう40代で終わっていて、50代以降は誰かのためになるような仕事をしたいと思ってやっているんです。「地面師たち」は自分から企画を持ち込んだので、結果的に自分も喜ぶ形にはなりましたけど、それよりも、日本発のNetflix作品が国内だけではなくグローバルレベルでヒットしているという祭りに乗っかっている意識の方が強いんですよね。今のヒットしている状況は大変うれしいですが、それもNetflixのためというか、配信メディアがもっと盛り上がった方が、映像業界全体が活気づくんじゃないかという、どこか冷静に見ている感じではあるんです。
――ドラマや映画に限らず、ミュージックビデオやライブ映像の演出、若い頃にはバラエティー番組まで、幅広く雑食的に仕事をしてきたことは、どう今につながっているでしょうか。それこそ、大根さんのディレクターデビューは宮沢りえのデビュー曲「ドリームラッシュ」のカラオケビデオという。
大根:そうそう、小室哲哉プロデュースの曲。しかもミュージックビデオじゃなく、カラオケで流れるビデオの方っていうね。若い頃はそういうカラオケビデオだけじゃなく、クイズ番組から健康番組まで、人がやりたがらない仕事もたくさんやってましたよ。そこからドラマや映画の監督になるっていうのはなかなか考えづらい道のりだけど、当時そういう仕事を下積みだったと感じていたかといえば、そうでもないんですよね。誰からも見向きもされないような仕事だったとしても、一つくらいは得るものがあったと今では思えるんです。いいスタッフと出会ったとか、いいロケ地が見つかったとか、些細なことでいいので、得たものがあればのちのち仕事に生かすことができる。