かつての少女たちが立ち上がったーー再建目指す「サン宝石」の敗因と、『りぼん』&『nicola』元編集長が語る魅力
なぜ、かつての少女たちはサン宝石の危機に立ち上がったのか? 「キラキラしたアクセサリーや雑貨にときめいたり、漫画にドキドキしたりした少女の頃の気持ちは、大人になってからも、心のどこかに残っているのだと思います」 集英社で少女漫画誌3誌の編集長を歴任してきた手島裕明さん(66)はそう話す。発行部数100万部以上を叩き出していた約15年前の『りぼん』編集長時代には、毎号のようにサン宝石のカタログ広告が裏表紙(表4)を飾っていた。
「小学生でも購入できる安さが魅力でした。当時の田舎にファンシーショップはなかったですから。女の子たちは一生懸命お小遣いをためてサン宝石のアクセサリーや雑貨を購入していたのでしょう。通販の注文ハガキを投函してからは、いつ届くかと毎日郵便受けを確認して。 こうした少女時代の思い出は、大人になって手に入れるリアルな宝石よりも、もしかしたら価値があるのかもしれません」 そう感じるのは、自身の編集者としての経験からだ。 「ある時、小学生の読者から『編集人 手島様へ』と書かれた手紙が届いたのです。『毎日3日(発売日)が待ち遠しくてしょうがない、私の町には本屋さんがないから、隣町まで自転車をこいで必ず買いに行ってます。もっとおもしろい漫画をお願いします』と。ハッと目が覚めましたよね。このまっすぐな気持ちは、やっぱり、まったくおろそかにできないと」
「子ども向けのコンテンツをつくる時は、大人のもの以上に、決して手を抜けません。サン宝石さんも子どもたちとちゃんと丁寧に向き合って、ずっとがっかりさせなかったから、長い間愛されてきたのではないでしょうか」
雑誌不況と原宿カルチャーの衰退が経営を圧迫
山梨の本社には、子どもたちが心を込めて書いたファンレターが何百通も大切に保管されている。ファンからのまっすぐな反響や思いを、常に商品づくりに反映してきたのがサン宝石だった。 「高い商品ばかり残したら儲かるかもしれないけれど、いずれ高い商品を買えるお客さんしか残らなくなる。値段よりも、何人のファンが喜んでくれたのか、レスポンスが何%だったのかを大切にしよう」。過去のインタビューで、渡邊さんの父、社長の洋さんはそう語っていた。 しかし経営難は、長年の経営哲学をもブレさせる。ここ数年で大幅な値上げに踏み切った。