【現役デザイナーの眼:ホンダNボックス・ジョイ】宗一郎イズムとマッチしたデザイン
ノーマル仕様、カスタム仕様に続く『第3の提供価値』
ホンダのNボックスは、長い間軽自動車販売台数1位の大人気車種です。昨年モデルチェンジした3代目は、原点回帰のようなシンプルなデザインをベースに印象的なヘッドライトなど細部のクオリティを高めています。 【写真】ホンダの『M・M思想』を感じるデザイン 画像はこちら (11枚) グレードは、これまで大きく『ノーマル仕様』と『カスタム仕様』の2方向でした。 『カスタム』というのは、おそらくダイハツ・ムーヴが最初だと思いますが、このように2つの異なった価値をひとつのクルマで提供するという方法は、今やミニバンなどでも一般的になりました。 これはとても賢いやり方だと思います。1台の車を開発するのはとても大きな投資が必要ですが、1台で異なるユーザーに訴求出来るのはとても効率的なのです。 さらに近年、トール系軽自動車では『第3の価値』を提供しだしました。それはスズキ・スペーシア・ギアや、ダイハツ・タント・ファンクロスといった『アウトドアフィール』のクルマです。 ここ数年のアウトドアブームは、日本のみならず世界的なトレンドで、クルマのデザインにも大きく影響しています。例えばトヨタRAV-4のようなグローバルで販売するクルマでも、現行型はとてもタフでラギットなデザインですよね。SUVデザインの主流が、高級感などからタフ・ラギット方向へ変わりました。 そんな中、Nボックスはノーマル仕様とカスタム仕様の2方向のままでしたが、その理由はおそらく、販売が順調だったので、追加する必要が無かったということでしょう。 しかしこのアウトドアブームの中、ライバルが敏感に反応しだしたので、ホンダとしても満を持して投入したのが、この『Nボックス・ジョイ』というわけです。
他社とは異なる、オリジナルの価値を追求した『ジョイ』
Nボックスの『第3の価値』であるNボックス・ジョイは、他社のアウトドアフィール全開のデザインとはやや異なります。どちらかというと『脱力系』というか、リラックスした雰囲気が感じられますね。 ここ数年トレンドの、『チル』の具現化というところでしょうか。 差別化のキモは顔まわりのデザインですが、他社は高さ方向を感じさせる比率にしており、ノーマル仕様より迫力や存在感を出して、一目で違う印象になっています。 それに比べこのNボックス・ジョイは、ノーマル仕様と同様に横方向を基調としており、比率的には意図的に変えていないことが伺えます。 その代わり、道具感の演出として黒樹脂部分を配置していますが、ホイールキャップにメッキをあしらっているのも含め、このクルマは他社と明確に価値を変えてます。インテリアにチェック柄を採用しているのも、そのようなコンセプトだからでしょう。 見たところNボックスのフロントバンパーは、ノーマル仕様とカスタム仕様は同じ形状のようですが、Nボックス・ジョイは専用バンパーですね。その代わりヘッドライトはノーマルと基本的に同じなので、こうしたところに『コストのやりくり』が見て取れます。 このような企画の場合、特に営業部門は、既存仕様との差別化を希望することが多いです。やはり折角作るのですから、既存のユーザー以外に訴求し、費用対効果を求めているんですね。 ノーマル仕様がすでに『チル』の要素が入っていると感じるので、Nボックス・ジョイも魅力的ではありますが、もっと分かりやすい第3の価値を投入した方が、ユーザーも選びやすいかなとも思いました。 しかし、それはホンダデザインが目指している方向性と相違があるかもしれません。