<欧州消滅の危機は本当?>説得力に欠けるマクロン大統領に期待しなければならない理由
マクロン演説の意図
マクロン大統領は、4月25日の演説で、ロシアのウクライナ侵略、米国の欧州への関心の低下、欧州の経済の停滞と反自由主義ポピュリズムの台頭により、欧州は消滅の危機にあるとの認識を示し、事態打開のため欧州が独自の安全保障政策を強化し、欧州経済の成長に向けての新たなモデルが必要だとして種々の具体的施策を提唱した。 「欧州の消滅の危機」といった言葉で注目を引くのはマクロンの得意とする手法である。7年前にマクロンは欧州連合(EU)の将来ビジョンを打ち出したが、今回の演説はその後の国際情勢の変化を反映し、ロシアに勝利させてはならないとの認識を示し、米国に依存しない欧州独自の安全保障の枠組み構築を主張している。 この演説は、現状分析は良いが、対応策については、昨年の総選挙以来、国内での政治基盤が弱体化し、言行不一致の傾向があり、特に2月の唐突なウクライナ駐留論で、欧州内の分裂を際立たせたマクロンに実現可能であるとは思えないと否定的な反応が見られた。この演説は、6月の欧州議会選挙を前に、ルペンらのポピュリズム勢力に大きなリードを許していることを意識し、ウクライナ支援やEUの結束の重要性を世論に訴えて巻き返そうとしたとの見方もある。
特に、EUの結束という場合には、フランスとドイツが両輪となってリーダーシップをとるのが通常であるが、マクロンとショルツの間には、ウクライナ支援をめぐる不協和音が既にあり、それがマクロンのウクライナ駐留論で更に深刻化してしまった。マクロンが何を言ってもドイツ他EU諸国が付いていかないであろうし、フランスが率先して軍事面、経済面で実質的な措置を講ずることも、フランスの財政事情に鑑みれば難しいだろうとこの論説は見ている。
それでも、EUは協調の余地がある
確かに、マクロンの提唱したさまざまな措置を実現していくことは容易ではなく、欧州議会におけるポピュリストの台頭でEU自体が機能不全に陥る可能性もある。しかしそれ故に、EU強化という方向性は正しいものであり、外交に関するフランス大統領の権限は強力で、また他のEU加盟国にEUの将来ビジョンを提示する強い指導者がいるわけでもなく、結局、マクロンの諸提案を一つとしてEU委員会及び加盟国内の議論が進むのだろう。今後は、独仏両首脳が対ウクライナ支援に関する立場の違いを調整し関係修復ができるかにもよるだろう。ショルツは、ドイツも欧州が強固であり続けることを望んでおり、マクロンの演説にはそれを実現するための良いアイデアが含まれていると述べ、ウクライナに対する対応はともかく、EUの在り方については協調の余地がある。 そして、来年EU議長国となるポーランドは、ロシアの脅威をより身近に感じてドイツとの和解を進め、地政学的にEUを強化すべきだとのマクロンの主張に共鳴しており、イニシアチブを発揮する可能性もあろう。従って、この論説はマクロンの影響力についてやや過小評価に過ぎるようにも思う。
岡崎研究所