【朝ドラ歴史解説】『虎に翼』が描く日中戦争の泥沼化と国家総動員法 そしてじわじわと迫る太平洋戦争
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第7週「女の心は猫の目?」を放送中。主人公・猪爪寅子が新人弁護士として活躍の場を得られず、「結婚しなければ一人前になれない」という理不尽な壁にぶつかった。一方で、日々の暮らしの描写に戦時下の状況がありありと見てとれる。ここでは昭和16年(1941)の日本の状況を解説する。 ■日中戦争の泥沼化と国家総動員法が暮らしに侵食する まずは昭和16年(1941)の日本と世界の状況を簡単に整理しよう。日本は昭和12年(1937)7月に起きた盧溝橋事件に端を発し、中国との全面戦争に突入。ただし両国は国際的な経済制裁を恐れて太平洋戦争開戦まで宣戦布告を行わなかったため、この時点で日本では「支那事変」などと呼称されていた。 戦火は中国全土に広がり、中国の「国共合作」による徹底抗戦によって戦局は泥沼化していた。日本政府は年間予算とほぼ同額の戦費を計上し、日本経済は困窮していく。 また、蔣介石率いる中国軍に対する英米からの支援ルートを遮断するために、日本軍は北部仏印(現在の北部ベトナム、ラオス、カンボジア)へ進駐。さらに資源獲得のため南部仏印にまで進軍し、英米からの対日抗議も強まる一方だった。 日中戦争が長期化し戦費が膨らんで苦境に立たされた日本は、昭和13年(1938)5月に「国家総動員法」を施行。日本中の全ての人的・物的資源を政府が統制運用できるように規定された。国への滅私奉公や質素倹約が推奨されると、「ほしがりません、勝つまでは」や「ぜいたくは敵だ」といったスローガンが盛んに流布されるようになる。 この国家総動員法で、全国で金属回収が始まった。街からはマンホールや建物の鉄柵、手すり、銅像などが消え、寺院では仏具や梵鐘が回収された。作中で描写されたように、各家庭からは鍋や釜、ブリキ製の玩具などが供出された。 また家庭の食生活も徐々に質素なものになっていった。猪爪家の食卓も随分と品数が減っているし、作中で轟太一(演:戸塚純貴)が日の丸弁当を頬張って「質素倹約だ!」と口にしたのには、国が米と梅干のみという日の丸弁当を奨励していた背景がある。 そしていよいよ日本は太平洋戦争への道を辿っていく。作中で猪爪家のラジオや新聞が伝えた通り、昭和15年(1940)9月には、日独伊三国同盟を締結。その前年の昭和14年(1939)9月1日には、ドイツとスロバキアが国境を越えてポーランドへ侵攻。イギリス・フランスがドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦の戦端が開かれていた。ヨーロッパで戦火が広がり、日本もまた、英米との開戦は避けられない状況に陥っていった。 果たして今後寅子たちはどうなるのか、佐田優三(演:仲野太賀)や花岡悟(演:岩田剛典)、轟太一(戸塚純貴)らに赤紙は来るのか、これから過酷な時代が描かれていく。 <参考> ■『歴史人』2023年9月号「太平洋戦争開戦の決断」
歴史人編集部