隼人、團子、壱太郎、米吉が揃い踏み!Wキャストで挑むスーパー歌舞伎
“スーパー歌舞伎”として、演劇界に新たなジャンルを打ち立てた歴史的な作品、三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』が、11年ぶりに博多座に帰って来る。 【画像】その他の写真 中村隼人と市川團子が、小碓命後(おうすのみこと)後にヤマトタケルと大碓命(おおうすのみこと)を、中村壱太郎と中村米吉が、兄橘姫(えたちばなひめ)、弟橘姫(おとたちばなひめ)姉妹をそれぞれWキャストにて演じるのも話題だ。2月から各地でロングラン公演中の本作だが、この4名が揃うのは博多座のみ。いよいよフィナーレを迎える本公演を前に、中村隼人、市川團子、中村米吉の3名が来福。この日、来福できなかった中村壱太郎もビデオメッセージで登場し、10月の公演に向けての抱負を語った。 「古事記」を題材に哲学者・梅原猛が書き下ろした日本神話のヤマトタケルの波瀾に満ちた半生と伝説を、三代目市川猿之助が大胆な構想のもと独創的なドラマとして築き上げた本作。1986年の初演から大きな反響を呼び、“スーパー歌舞伎”を演劇界の新たなジャンルに打ち立てた歴史的な作品だ。博多座では2008年4月、そして2013年6月の上演以来、11年ぶり3度目の上演。これまで数々の再演、練り直しての上演が行なわれてきたが、今回は初演に立ち返り、壮大なストーリーを丹念に描き出すという。 そんな『ヤマトタケル』に対する思い入れは3人ともかなり強い。 「ジブリ作品やファイナルファンタジーの歌舞伎化など、歌舞伎の裾野が広がっていますが、そのきっかけをつくったのがスーパー歌舞伎。その1作目『ヤマトタケル』は、ある意味、演劇史を塗り替えた作品です。最初は自信のない少年だったヤマトタケルが、さまざまな成功体験を経て成長し、最後は人間のもつ傲慢の病に滅ぼされてしまうという、人間の普遍的なテーマを扱っている点も魅力的です。父・中村錦之助も当時の新人公演のような形でヤマトタケルを演じ、思い入れが強い作品です。そんな作品に親子二代で出演させていただけることを、非常に光栄に思っています」(中村隼人) 「この作品は、祖父・三代目猿之助の人生と言っても過言ではない作品。ヤマトタケルの考え方や信念も、祖父自身のものと重なるものが多く、最後の『天翔ける心、それがこの私だ!』というセリフも、“自分の気持ちをそのまま言った”ものだそうです。父である帝との葛藤、恋人との別れ、戦、仲間との関係性など、普遍的なテーマが詰め込まれ、哲学性も強いですが、同時に歌舞伎の持つエンターテインメント性と「スピード」「スペクタクル」「ストーリー」の3Sを兼ね備えた作品。セリフが現代語に近く、予備知識なしで理解できることも革新的だと感じています」(市川團子) 「歌舞伎の歴史が約400年として、38年前のスーパー歌舞伎の誕生は、この先の400年も間違いなく語り継がれるエポック的な出来事のひとつ。元々は非常に娯楽性の高い演劇であった歌舞伎が、しだいに高尚な古典となっていった中で、視覚、音楽、衣裳、かつらなどの舞台道具、照明などすべてを斬新かつ、どこか懐かしさを覚えるような作品世界に作り替えたのがスーパー歌舞伎。そのスーパー歌舞伎のすべてが『ヤマトタケル』に凝縮されていると思います」(中村米吉) また今回は、歌舞伎ではめずらしいWキャスト(交互出演)にも注目。年代も演技のカラーも違う役者同士、互いの演技を見て刺激を受けているそうだが、顔合わせによって空気感も動きもかなり変わってくるとか。さらに中村隼人が「3幕後半の台詞(セリフ)の一部が、私と團子くんでは全く違う」と驚きの見どころを披露。実は、1986年初演時の台詞を市川團子が、中村隼人は三代目猿之助自ら改定した1995年、1998年版の台詞で演じているのだとか。ぞれぞれが「しっくりきた」という台詞。まだ博多座版での最後の台詞はどうなるか決まっていないとの事だが、その言葉でラストの意味合いも変わってくるため、ぜひどちらも観てみたいもの。それぞれの世代による見え方の違いや、役への解釈が色濃く反映される重要なシーンになりそうだ。 また、ビデオメッセージでの登場となった中村壱太郎によると、中村隼人(ヤマトタケル役)と中村壱太郎(兄橘姫・弟橘姫役)の顔合わせは全公演のなかで6回しかないそう。同じセリフ、同じ演出でも、役者の顔合わせが変わることで、多彩な楽しみ方ができるWキャスト。役者同士の化学反応から生まれる、一期一会の舞台に期待したい。 「古い因習に取り憑かれている人たちに対して温故知新の精神を語るシーンは、三代目猿之助さんが歌舞伎界に持っていた思いそのものという気がして、三代目猿之助さんの人生も演じているような感覚もあります。先輩方のエネルギーを受けながら、胸を張って大千穐楽を迎えられるように精いっぱい勤めたいと思います」(中村隼人) 「ヤマトタケルという役の魅力は、どんなときも、希望を捨てず、前を向いているというところ。どんなに困難な状況でも自分の信念を貫いて進んでいくという精神を、祖父も体現してお客さまに伝えていたのではないかと思います。まだまだ経験値が少なく未熟な部分もありますが、ヤマトタケル役の実年齢に近い、若さがプラスになればと思っています」(市川團子) 「これまでも博多座で『ヤマトタケル』の上演はありましたが、兄橘姫、弟橘姫の一人二役早替りを披露するのはこれが初めてになりますので、同じ役者が演じることでまた新たな魅力が生まれるということを感じて頂ければ嬉しいです。ヤマトタケルを滅ぼす要因の一つを作っていく重要な役柄ですので、兄橘姫、弟橘姫とともに、しっかりと勤めていきたいと思います」(中村米吉) それぞれの思いが凝縮され、10月の博多座で熱いグランドフィナーレを迎える。 スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内 『ヤマトタケル』 <福岡公演> 10月8日(火)~22日(火) 博多座