三線を弾く山端富子さん（2016年、金子さん提供）

　琉球舞踊家の金子奈歩さん（51）（大阪市西淀川区）は、幼子2人を連れて沖縄戦を生きのびた祖母の体験を聞き取ってきた。2年前に祖母が100歳で亡くなるまで、10年間にわたって書きとめた記録を整理し、戦後80年に向けて順次ネット上で公開していく。「神様になったおばーと家族の物語」。戦争のない世の中へ、大切な人のことを思い出してほしいと願う。（枡田直也、写真も） 伯父の立昇さん（左）から話を聞く金子奈歩さん（大阪市西淀川区で）

　奈歩さんの祖母、山端富子さんは沖縄・南大東島出身で、戦後は大阪で夫の立昌さん（1996年に74歳で死去）と豆腐工場を営んだ。明るくて働き者。

　「戦争中は芋ばかり食べていたけれど、今でも芋は大好きよ」と冗談めかして思い出話をすることはあったが、沖縄戦については「話したくない」と口が重かった。

　奈歩さんはある日、祖母が親戚とウチナーグチ（沖縄の方言）で沖縄戦の話をしているのを耳にした。これまで祖母の気持ちを察し、あえて聞くことはせずにいたが、「おばあちゃんの稀有（けう）な人生を残さないと」。

　方言は十分にはわからないが、繰り返し尋ね、親戚の集まりや食事の時などに祖母がふと漏らす言葉も手近な紙に書きとめていった。

　「戦争は、人の命を何とも思ってないよ」――。1941年に大阪に来た祖母は空襲を避けるために2年後の43年、夫が手配した船で3歳と1歳の息子を連れて沖縄に戻った。しかし、45年4月に米軍が沖縄本島に上陸し、地上戦が激しさを増していく。

　息子2人を連れての逃避行が始まった。昼間は大きな木の根元に身を潜め、夜に人目を避けて山の中を移動した。畑に芋を探しに出る途中で米軍の戦車と鉢合わせし、伏せた頭上で銃撃戦が始まった。「もう人生は終わりだ」。死を覚悟した。銃撃戦が終わった時、見知らぬ人と抱き合って喜んだ。

　命が助かったことが奇跡に思える体験だった。祖母が2022年に亡くなるまでに書きためた聞き取りメモはファイル2冊分。形にして残すため、投稿サイト「note」で公開することにした。