土屋太鳳が演じることに意味がある…。ドラマ『海に眠るダイヤモンド』”百合子”に心を奪われたワケ。稀有な魅力を徹底解説
土屋太鳳が百合子を演じる意味
本作で土屋が扮する百合子は、ちょっと強気で、意地悪で、わがままな一面を持つ女性。天真爛漫さは通ずるところがあるが、百合子もまた、土屋にとってパブリックイメージを覆す役柄といえるだろう。 百合子の歯に衣着せぬ物言いは、心に残るものが多い。たとえば、第6話で島民に小声で囁かれる炭鉱長・辰雄(沢村一樹)に言った「おじさま気にしないで 島民の義務よ」というセリフには、百合子の物おじしない軽やかさと頼もしさが垣間見えた。 第7話の鉄平が朝子にノールックで花束を渡す場面で、一部始終を見ていた百合子の「今の何?麻薬の闇取引?」発言にクスッと笑わされたのも記憶に新しい。 脚本家・野木亜紀子の言葉選びやいい回しの秀逸さもあるが、土屋の凛とした透明感のある声が、百合子という人物を一段と鮮やかにみせてくれる。 百合子のキャラクターがより立体的になったのは、第4話「沈黙」だろう。朝子への確執と、被爆の苦悩が明らかになったこのエピソード。 百合子が発した、「爆弾を落とした人たちも同じ神を信じてた」「戦争は終わってない、被爆した人たちには終わってない」の言葉がずしんと響いて忘れられない。決して終わることのない傷を抱えた百合子のセリフには、戦争への強いメッセージが散りばめられている。 百合子を演じる土屋の根底には沖縄で受け取った「命のバトン」があり、広島・長崎の原爆の日や終戦の日には繰り返し平和への思いを綴ってきた。百合子は、そんなたえず平和を祈る土屋が演じるからこそ意味がある、そんな気がしてならない。
あまりにも美しいプロポーズ
第6話の賢将とのプロポーズシーンも語らずにはいられない場面だろう。幼馴染、そして“フリーダム”なカップルを経て本当の夫婦になった彼女たちは、あまりにも美しかった。 後遺症の影に怯え、恋愛、結婚から距離を置く決意を貫いてきた百合子に「結婚」という言葉ではなく、「これからも付き合ってよ、俺の人生 俺も百合子の人生に付き合うから」と寄り添う賢将。そして、百合子の涙ながらの「私の人生、手強いわよ」。 恋愛だけでは括れない、2人のお互いを慮る愛の大きさ、賢将の底なしの優しさ、百合子のここに至るまでの歩みと周りを浄化するほどの聡明さが詰め込まれていて、目を潤ませずにはいられない。 第8話では、彼女たちが子宝に恵まれ、子どもたちがその先も元気に、健やかに生きたことが判明する。百合子も幸せに生きられたのだと、彼女の幸せが自分のことのように嬉しい。 百合子を演じる土屋をみて、「土屋太鳳をもっと好きになった」という声が相次いでいる。「美人で気の強いお嬢様」という人物像がありつつも、百合子がどこか悲しく、不器用で、憎めないキャラクターとして受け入れられたのは、土屋が彼女の感情を多角的に捉え、ひたむきに演じたからこそ。百合子が本当に存在しているかのように思えてしまうのは、土屋が百合子を本気で生きているからなのだろう。 物語は、今週ついに最終話を迎える。百合子をはじめ、鉄平、朝子、賢将、リナたちの行く末、そして現代のいづみ(宮本信子)、玲央(神木隆之介)が辿り着く先とは──。土屋太鳳の演技を味わい尽くしながら、端島と現代を生きる彼ら、彼女たちの人生を、最後まで見届けたい。 【著者プロフィール:西本沙織】 1992年生まれ、広島在住のライター。会社員として働くかたわら、Web媒体でエンタメに関するコラムやレビュー記事の執筆を行っている。ドラマや映画、マンガなどのエンタメが好き。
西本沙織