「金メダルを取っても意味がない」…天才科学者・山中伸弥が語る、日本特有の“風潮”が及ぼす科学への「痛すぎる影響」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第31回 『「宗教」が研究を左右する⁉…“日本人より欧米人”の方が科学に惹かれる「意外過ぎるワケ」』より続く
日本だけに存在する医者と科学者の格差
山中 科学者の社会的地位も、アメリカのほうが高い気がします。僕は医師を経験してから科学者になりました。医師と科学者を比べると、日本は医師のほうが給料も高いし、みなさんが持っている社会的イメージも高いような気がします。 羽生 確かに、それはそうかもしれません。 山中 そういう反応がいまだにあると思います。アメリカは両者が対等というか、医師が自分の子供に医師になることをあまりすすめないケースも多いですね。日本は医師の子供さんは、けっこう医師になることが多いでしょう。実はうちもそうなんですけど(笑)。その辺の違いもなぜなのかな。 羽生 小さなころからの教育カリキュラムなどで、アメリカに比べて日本では科学に属する科目の割合が少ない事情もあるんでしょうか。
日本の医学部は「人材の無駄遣い」
山中 でも毎年、日本の小学生に「将来なりたい職業」を聞いていますけれど、結果を見ると「学者」「科学者」はけっこう上の方にいて、医師とそんなに変わりません。ところがフタを開けてみると、より多くの人が医学部に行く。どうも偏りがあるなと感じます。ただ、数学や物理が得意な子は日本にもたくさんいて、「数学オリンピック」や「物理オリンピック」といった国際大会で金メダルを取っていますよ。 羽生 そうですね。いろいろな賞を取っていますね。 山中 数学とか物理にずば抜けた才能があっても、その多くが医学部に行ってしまうんです。医学部に進むこと自体が悪いわけではないけれども、その後、医師という職業に就いても、特殊なケースを除いて数学も物理もほとんど使いません。だから、ある意味もったいない。今、こうして研究者という立場になると、もっとみんな研究者になってほしいなと思いますね。