22年前に建てられた名建築を購入してリノベーション!「ピカピカの新築よりも、歳月を経た味わいのある建物が好き」という施主の希望に大改修で応えた建築家の素敵なアイディアとは?
住む人もなく一棟丸ごと売りに出されていた名建築が蘇る!
雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、リノベーションされた22年前の名建築を取材した。女性建築家の草分けとして知られる林雅子さんが手掛けた2世帯住宅が、建物のエッセンスを残したまま、夫婦2人のための快適な住まいに生まれ変わった。ご存知、デザインプロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。 【写真16枚】22年前に建てられた名建築、建物のエッセンスを残しながら快適な住まいに生まれ変わったその室内とは ◆ピカピカの新築よりも味わいのある建物が好き 綺麗に区画整理された横浜の住宅街に建つ、会社経営のOさん(56歳)夫妻のお宅。コンクリート打ちっ放しで庭に面した大きな窓が特徴のこの家は、22年前に建てられたものを改修したとは思えない、美しい建物だ。もともと設計したのは、日本の女性建築家の草分けである林雅子さん。上下階がほほ同じ間取りの二世帯住宅として建てられたが、近年は住む人もなく一棟丸ごと売りに出されていた。 当時、この家にほど近い、眺めの良い丘の上に建つ一軒家に住んでいたOさん夫妻。散歩の途中に何度か家の前を通り、気になっていたという。それが売りに出ていると知り、2度ほど内覧をして購入を決断した。建築が好きで、住宅雑誌にもよく目を通しているOさん夫妻は、「ピカピカの新築よりも、歳月を経た味わいのある建物が好き」で、丘の上の一軒家も中古で手に入れ、それなりの金額をかけて改装を行ってきた。 ◆縁のある建築家に依頼 そんなOさんが改修を依頼したのが、安田幸一さんが主宰する安田アトリエである。安田さんは、林雅子さんのご主人で日本を代表する建築家の林昌二さんと仕事をしていた関係で、林さん夫妻の自邸である名作「私たちの家」(1955年築)を住み継いでいた。その改修手法は、数十年前に建てられた名建築をそのまま復元するのではなく、建物の持つオリジナルのエッセンスを残しつつ、自分たちが暮らしやすいように大改修したもの。訪れた人は、最初からそのような家だったと勘違いするくらいで、改修は極めて効果的かつ自然に行われている。そして何よりこの家の特徴が、Oさん夫妻が購入した家と同じく、庭に面した窓が45度の角度で大きく開いた家なのだ。これが安田さんに依頼する大きな決め手になったと、Oさんは話す。 さて、O邸の改修でまず求められたのは、二世帯住宅を夫婦二人の終の棲家として暮らしやすいよう、機能を整理すること。Oさん夫妻からは、1台分だったガレージを2台分にするとともに、雑然とした印象の庭を整えて欲しいと要望があった。少し暗い階段室周りも、奥様が気になったところ。ホテルを頻繁に訪れる二人からは、仕上げ材は、「〇〇ホテルの□□の部分のような」、といった希望も出された。 こうして2023年夏に完成したO邸は、20年以上も前に建った家を改修したとは思えぬ佇まい。一体どこに手を入れたのか、説明を聞かなければ分からないレベルだ。オリジナルの間取りは、庭に面した大きなワンルームを、造作家具で緩く区切ったもの。かつては、玄関から入るとすぐにダイニングだったが、改修後は暖炉の有るゲストをもてなすホールに。奥にある、庭を望む大きなベッドルームと、半透明のガラスのパーティションで仕切っている。 2階はリビング・ダイニングとキッチン。丘の上の家の眺めがよかったこともあり、奥様たっての希望で、大きな窓が望める位置にキッチンを配した。階段室はトイレを撤去し余裕のある空間に。階段の床面には林雅子さんが多用した毛足の長い絨毯を敷き、滑りにくい工夫もこらした。家具は、この家のためにOさん夫妻が新たに選んだものがほとんどだ。センスの良さが窺える。 ガレージは、庭の一部を削りL字型のスペースに2台が停められるよう増設された。そしてガレージ上部はコンクリート製のデッキとして機能し、美しく整えられた芝生の庭を囲む構造になっている。 ◆家に合ったクルマを 現在車庫に収まっているのは、アストンマーティンDB11AMR(2019年製)と、通勤などに使っているレクサスRX。1台はスポーツタイプで、もう1台は実用車の組み合わせの、2台持ちのスタイルを長いこと続けている。前者に該当するクルマとして、これまでレクサスIS F、ベントレー・コンチネンタルGT、アルピーヌA110などに乗ってきた。 そんなOさんが、A110Sから今のアストンマーティンに乗り換えた経緯が面白い。この家の工事終盤、ガレージ周りの工事があらかた済んで訪れた際、「このスペースに青いA110Sが停まる姿に違和感を覚え、落ち着いたボディラインのアストンマーティンに乗り換えることにした」のである。Oさんならではの、美意識を感じさせるエピソードだ。ちなみにAMRは走りに少しふったモデルだが、選んだ理由は、「インテリアの黄色の差し色を気に入ったから」。納車の日には、そのまま夫婦でドライブし海辺のホテルに一泊してきたという。このように夫婦で、スポーツカーに乗ってホテルやレストランを訪れるのがOさんのスタイルだ。 この家に引っ越して4カ月。大きなワンルームを仕切った空間で果たして落ち着けるのかが心配だったというOさん夫妻。入居してすぐに杞憂だと分かったそうだ。念願だったオーディオを新調したOさんは、友人たちがレコードを持ち寄って試聴するパーティーを開催。この家ならではの楽しい生活が、既に始まっている。 かつては二世帯用として建てられた住宅が、大規模な改修を経て、住み手夫婦に寄り添った住宅に生まれ変わったO邸。こういう改修なら、新築にこだわらず、ちょっと古い家に手を入れるのも大いにありだろう。 文=ジョー スズキ 写真=田村浩章 ■原設計:林雅子 1928~2001年 日本の女性建築家の草分け。清家清のもとで研究・設計を行った後、二人の女性建築家と林・山田・中原設計同人を設立。自邸は代表作のひとつ。 ■建築家:安田幸一 1958年生まれ。東京工業大学大学院修了後、日建設計に勤務。当時、日建の役員だった林昌二から指名され箱根のポーラ美術館を担当。2002年に独立し安田アトリエを主宰。写真は代表作である京都の「福田美術館」。隣の宿、MUNI KYOTOも手掛けている。 ■ジョースズキさんのYouTubeチャンネル、最高にお洒落なルームツアー「東京上手」! 雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を! (ENGINE2024年2・3月号)
ENGINE編集部
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