湊かなえ原作の舞台『ブロードキャスト』開幕 放送部の魅力が詰まった青春感動作
『告白』、『Nのために』、『母性』などこれまで数多くの作品が映像化されてきたベストセラー作家・湊かなえが初めて執筆した学園青春小説を舞台化した『ブロードキャスト』が8月10日にエコー劇場(東京・恵比寿)にて開幕した。前日にはメインキャストを務める新正俊、木村来士、深尾あむが取材会に出席し、ゲネプロの模様が報道陣・関係者に公開された。 【全ての写真】舞台『ブロードキャスト』ゲネプロより (全17枚) 物語の舞台となるのは、スポーツ強豪校として知られる青海学院高校。中学時代に陸上部に所属し駅伝のメンバーとして、あと一歩で全国大会出場を逃した圭祐(新)は、同校に合格するも、ある理由から陸上をあきらめることに……。そんな折、同じ中学出身で脚本家志望の正也(木村)に誘われ、放送部に入部する。正也や同級生の咲楽(深尾)、先輩たちの熱意に触れ、徐々に放送部の活動にやりがいを見出していく圭祐だったが……。 舞台上には、学校の放送室のセットが組まれており、中央には「ON THE AIR」のランプが。物語の冒頭、ラジオドラマのような構成で、圭祐の中学最後の駅伝大会の模様が描かれる。誰もが認めるエースランナーである山岸良太(奥村等士)を欠いたことで、圭祐の中学は2位となり全国大会出場を逃す。そこから、良太は推薦で、圭祐も一般入試で青海学院へと進むのだが、圭祐が陸上をあきらめざるを得なくなる経緯が描かれる。 本作の特徴であり、大きな魅力となっているのが、舞台上のSE(効果音)をキャスト陣自らが作り出すという点。“音”だけで物語や感動を伝えるラジオドラマが物語の中で大きな軸となっており、ラジオドラマ制作の様子を舞台で描いているということを伝える遊び心とユーモアに満ちた演出だが、足音やドアの開け閉めの音、台所で包丁を使う音まで、キャスト陣が様々な小道具を駆使して、タイミングを図りながら多彩な音を作り出し、それらのリズムとテンポによって軽快に物語が進んでいく。 物語の中心となるのは、主人公・圭祐の成長物語。挫折を味わい、陸上への未練を抱きつつも、周囲の熱量に感化され、放送部という未知のフィールドでやりがいを見出していく圭祐を新が好演。“イケボ”という圭祐自身がまるで気づいていなかった魅力と才能を正也や深尾、先輩ら周囲の人間が引き出していくさまも観る者の心を掴む。 正也は、自分の好きなこと、クリエイティビティを曲げずに貫き通す芯の強さを持っており、舞台初出演でキャスト陣最年少の木村が他人に左右されない強く快活なキャラクターを舞台上で魅力的に表現し、存在感を放つ。 正也が脚本を書いたラジオドラマ「ケンガイ」は、SNSによるイジメの問題をSF仕立てで描いた作品であり、劇中劇として舞台上でも描かれるが、それは深尾が演じる咲楽が学校で直面している状況とリンクしている。クラスで孤立している咲楽もまた、声の良さを買われ正也と圭祐に放送部へと誘われ、友情を築いていく。深尾も舞台初出演となるが、控えめながらも好きなアニメや声優の話となると、オタクモード全開で早口でまくし立てるというギャップを魅力的に見せ、物語の中軸をしっかりと担っている。 この他、放送部のコミカルな先輩たちや圭祐の母、陸上部の顧問などの面々も個性豊かで魅力的で、それぞれの思いをもって自身の“好き”や“信念”を貫き、温かく圭祐らを見守り、導いていくさまが感動を呼ぶ。 部活動の中でも決してメジャーな存在とは言えず、どんな活動をしているのか知らない人が多いであろう(実際、劇中でも“陽キャ”のクラスメイトが放送部の活動に対し、いわれなき誹謗中傷をぶつけるシーンがある)放送部の内実を丁寧に描いているのも本作の大きな魅力。 約100分という短い時間の中で、テンポよく濃密で重層的な物語が展開し、青春の爽快感を味わわせてくれる。 舞台「ブロードキャスト」は8月25日(日) まで、東京・恵比寿エコー劇場にて上演。 取材・文:黒豆直樹 <公演情報> 舞台『ブロードキャスト』 公演期間:2024年8月10日(土)~25日(日) 会場:恵比寿・エコー劇場