レジェンド武豊に学ぶ、なぜ小さな仕事でも「全集中」で取り組むべきか
武豊さん、朝2時からの仕事「大変だと思ったことは一度もない」
小さなタスクにも真摯に向きあうといえば、武豊さんのことを思い出します。 武さんは日本を代表する騎手で、デビュー1年目から69勝をあげ、JRA賞最多勝利新人騎手賞を獲得し、2年目には、国際的に最高の格付けのレースであるG1でも優勝しました。以降、ほぼ毎年のようにG1での勝利を重ね、中央競馬の通算勝利数は前人未到の4500勝を超え、さらに上を目指そうとしている、史上最高の素晴らしい騎手です。 武さんが初めてG1を獲得した頃、彼の実家まで伺ったことがありました。その頃はまだ若手で、フリー契約ではない、厩舎に所属する騎手という立場でした。ですから毎朝馬の世話をするために、朝の2時、3時頃から仕事を始めていました。 その後、5時、6時頃から、次のレースに出る馬の調教がお昼前の11時近くまで続き、やっと朝食。それからひと休みして、今度は自らのトレーニング。加えて技術書を読んだりと、大変忙しい日々を送っていることを知りました。 私は「騎手の仕事は本当に大変ですね」と声をかけました。ところが彼からは「そんなふうに思ったことは一度もありません」という、きっぱりとした大声が返ってきました。
やり遂げて当然のことには辛さや苦しみは感じない
理由を尋ねると、「騎手という仕事を自分が選んだのは、父・武邦彦がジョッキーとして素晴らしい活躍をしている姿を見て、自分もそうなりたいと思ったからです。自分で選んだ以上は、細かい仕事もやり遂げるのは当たり前のことです。当然と思っていれば、苦しいと感じることは絶対にありません」と言うのです。 私は、彼のきっぱりとした返答に一瞬驚きながらも、「確かにそうかもしれないな」という思いがしました。 以来、自分も仕事で行きづまっているときなどに、彼の言葉を思い出します。すると、やり遂げて当然のことには、辛さや苦しみは感じないものだということに気付かされるのです。 若くしてその境地に至っていた彼は、本当に素晴らしい。さすが天才と言われるだけのことはあります。その後『日立 世界ふしぎ発見!』にも、何度か出演していただきました。 思っていた通り、とてもクレバーな解答者でした。
※本記事は『「伝える」極意』(執筆:草野仁)を再構成したものです。
執筆:草野 仁(キャスター)