井上拓真に待ち受ける試練とビクトリーロード!
ウーバーリはワンツー主体にテンポよく前進してくる。上下に綺麗に打ち分けてくるテクニックもある。 「手数と巧さがある」とは、拓真のウーバーリ評。 先にリズムをつかまれ、どんどん前に出られたら厄介である。だが、拓真は、「自分のボクシングを徹底すれば大丈夫。自分の距離をしっかりキープすること」という。 アマ時代、そしてプロ転向当初は、前へ前へとガムシャラに出るファイタースタイルだったが、出入りのボクシングを覚えた。言わば勝つためのボクシングである。 実は、拓真が、理想としているボクサーは、あの50戦無敗のフロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)。打たせずに打ち、確実にポイントを重ねていく、勝利至上主義の負けないボクサーである。 ウーバーリは、一発があるタイプではないので、激しい攻防の中、どちらが自分の距離で戦い、先にペースをつかむか、先にいいパンチを入れるか、というギリギリの勝負になるだろう。 序盤に好スタートを切ることは勝利の必須条件。それに成功しても後半勝負になってくる。 真吾トレーナーは、拓真には、あるスイッチがあるという。 「尚も高校のときから壁にぶつかりながら伸びてきた。でも尚は安定している。対する拓は波が激しかった。上がるときは上がるが落ちるときは落ちる。でもスイッチが入ると凄い。今は、スイッチが入って、その波が上がっている途中」 だから「五分以上」との自信がある。 そして、過去最強の相手となるウーバーリを下し正規王者の称号を手にすると、次なる難敵が待っている。先日のWBC総会で、11月23日にWBC世界ヘビー級王者、デオンテイ・ワイルダー(米)の前座で行われるロドリゲス対ネリの勝者が指名挑戦者となることが決定。 大橋会長も「通達を受けている」と明かした。 ご存じの通り、ロドリゲスは、兄の尚弥が5月に英国グラスゴーで行われたWBSSの準決勝で、2ラウンドに沈めた元IBF世界同級王者。1ラウンドは、ほぼ互角の展開を見せ、大橋会長が「尚弥にとって最強の相手だった」と振り返るほどの実力の持ち主。 そしてもう一人のネリは、日本のボクシングファン全員の敵とも言える悪童。元WBC世界バンタム級王者の山中慎介氏が、2度敗れているが、一度目はドーピング疑惑、2度目は、前日計量で、2キロ以上オーバー失格の暴挙を犯し、その重い体重のまま山中氏をTKOし大顰蹙を買い、日本のリングから事実上の永久追放処分となった。 ネリが勝つと、どこで戦うのかという厄介な問題が浮上してくるが、大橋会長は「ロドリゲスが勝つと思う」と予想している。 ウーバーリ、そして、兄の元好敵手か、悪童という、試練の世界2連戦を勝ち続ければ、兄に肩を並べるほどのスポットライトを今後は弟の拓真が浴びることになる。 だが、拓真は今は“その次”など眼中にない。 もちろん「逃げない」が、「今は目の前に集中した状態。そこ(次の試合)は気にしていない」とキッパリ言い切った。 「兄弟でバンタム制覇。しっかりと勝って兄にいいバトンをつなげる。兄弟ダブル世界戦は、大一番。いつも以上に気合が入っている。正規チャンプになって認めてもらいたい」 11.7は、井上家が、拓真のWBC、そして、尚弥のIBF、WBA、WBAスーパーと、バンタム級の4本のベルトを独占する記念日にする決意だ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)