『虎に翼』寅子は家裁の“母”と呼ぶべき存在に 香子の娘も逮捕された少年事件への眼差し
国側の勝訴で幕を閉じた原爆裁判。どうしても無力さを拭いきれぬ寅子(伊藤沙莉)に、航一(岡田将生)は「上げた声は、判例は決して消えない」と語りかける。自身のかつての言葉が寅子を再び前へ向かわせた。 【写真】成長した寅子の娘・優未(川床明日香)とのどか(尾碕真花) そして、その通りに広島・長崎への原爆投下を国際法に違反するとした判決は世界で注目を集め、被曝者への国の支援を法制化する根拠の一つとなっていく。真摯なジャーナリズムでこの裁判を世に広めた竹中(高橋努)の功績も大きい。 そんな竹中の「またどこかでな、佐田判事」という言葉がどこか寂しく響いた『虎に翼』(NHK総合)第116話。歳を重ねるたびに「また」という約束が果たされないことも増え、2年後には百合(余貴美子)が家族に見守られながらこの世を去る。晩年は認知症で表情が乏しくなっていた百合だが、最後に以前のような優しい笑顔を見ることができて良かった。 消えていく命もあれば、生まれる命もある。朋一(井上祐貴)が子宝に恵まれ、寅子にも孫ができた。直人(青山凌大)も結婚し、お正月に猪爪家と星家が集合するとかなりの大人数だ。それぞれ状況は変わっているが、特に興味深いのが優未。毎田暖乃からバトンを引き継いだ川床明日香が演じる優未はすっかり大人の女性となり、現在は大学院で寄生虫の研究をしているという。何をきっかけに寄生虫に興味を持ったのかが気になるところだ。 寅子はといえば、発足から20年が経った東京家庭裁判所部の総括判事となり、少年事件の審判を担当している。この頃の日本は社会の発展とともに未成年による凶悪犯罪が増え、日米安保改定やベトナム戦争への抗議デモが徐々に激化していた。それでも犯罪行為の背景にまで目を向け、一人ひとりの人生に向き合う寅子の姿勢は変わっていない。横暴な態度をとる青年にも一切怯まず、柔らかな笑顔を見せる寅子はまさに家庭裁判所の母と呼ぶべき存在だ。 そんな中、桂場(松山ケンイチ)が最高裁長官に就任。ついに司法の頂に登り詰める一方、多岐川(滝藤賢一)はがんを患い、病に伏せっていた。しばらく見ぬ間に老け込んではいるが、見舞いに訪れた寅子にふざける様子は以前のままで少しホッとする。そこで登場するのが、大学生になった香子(ハ・ヨンス)と汐見(平埜生成)の娘・薫(池田朱那)だ。つい最近まで母親が朝鮮人である事実を自分に隠していたことが許せず、両親に反発していた。 https://twitter.com/asadora_nhk/status/1832921427303104589 現在よりも遥かに朝鮮人に対する偏見や差別が色濃かった時代に、娘のためにも香淑という名を捨てて日本人として生きる覚悟を決めた香子。だが、学生運動に没頭している薫は間違った社会に声を上げなかった母親の選択を受け入れることができなかったのだ。第24週では、そんな薫が事件に巻き込まれて逮捕されてしまう。時代とともにその形が大きく変化していく少年事件に寅子はどう対峙していくのだろうか。
苫とり子