「車椅子の女性との初体験を話していいのか戸惑っていた」「愛しさを持って書いてくれているのが伝わる」根本にあるのは女性への崇拝《爪切男・鈴木涼美対談》
「僕の、私の、愛する女の子」鈴木涼美×爪切男〈対談・後編〉
小学校から高校まで、恋した女の子たちとの強烈な思い出をつづった作家・爪切男のエッセイ、『クラスメイトの女子、全員好きでした』。文庫化に際して解説を寄せた作家・鈴木涼美氏も女の子を書きたい、という点で共通していた。ふたりが愛する女の子とは? 【写真】女の子を崇拝している点で一致しているおふたり
最も影響を受けた「親」の存在
爪 『クラスメイトの女子、全員好きでした』に出てくる自分の父親って、おもしろおかしく書いてはいるけど、今だったら完璧にDVで逮捕されるレベルなんですよね。 親父も最近その頃のことを思いだすようになったらしくて、「お前は俺を恨んでないよな……?」って言うようになって。僕の本をちらっと読んだらしいんですけど、「なんでこんな俺のことすらいいように書いてくれているのか?」って言って。 鈴木 厳しいお父さんだったみたいですね。 爪 生まれが香川県のド田舎で、男尊女卑がひどいところだったんですよ。父親はアマレスの選手でオリンピックを目指せるくらい強かったんだけど、惜しいところで負けてしまって。そういう挫折を繰り返してきた人なんです。 夢やぶれてみじめに田舎に戻ってきているので、我が子にいばり散らすことでしかアイデンティティが保てない人だったんですよ。本当にもう、ガキ大将が親になったみたいな感じでしたね。 普通、金曜ロードショーで『ロッキー』が放映されたら、週明けに学校でガキ大将がボクシングの真似していじめてくるじゃないですか? 僕の家では親父がそれを僕にしてくるんです(笑)。 鈴木 でも、今でもお付き合いはあるってことですよね? 爪 今は仲よいですよ。うちの親父、定年をむかえてからAVにはまったらしくて、それならうちに邪魔になるくらいあるから送るわって言ってプレゼントしたり。でも、AVが届いたら親父が「やっぱり俺の息子だと思った」って言ってきて。 「どうして?」って聞いたら、大量に送られてきたAVがちゃんと女優の名前で五十音順に並べられていたからって(笑)。親父もそういうことする几帳面な人だったんで、開けてびっくりしたって。親父が探しやすくしてあげようと思って、親切心でそうしたんですけどね(笑)。 鈴木 私の出ていたAVが入っていたら良かったですね。 爪 結構新しめのやつだったんでね……。 鈴木 そっか、私が出たのはVHS時代なんで(笑)。 爪 鈴木さんは、親御さんの影響はありますか? 鈴木 私は親、特に母とは関係が深く、仲も良かったですがそれなりに恨んでもいますよ。愛憎入り混じる感情がありましたね。最も影響を受けた女性ではあるけれども、最も言い負かしたい存在でもあったので。 文章を書くモチベーションのひとつが、AV出演などをめぐって、母の論理を超えるということだったんです。なのに、死なれて逃げ切られちゃったという思いもあって。若い頃は、行動で親の理解の範疇から抜けたいと思って、不良化してったところがあったんですけど。