引退は「人事異動」社会人野球に魅了されたトヨタ自動車 佐竹功年(41) 特番「プロ野球じゃないとダメですか?」プロデューサーとディレクターが語る舞台裏
佐竹さんは颯爽と室内練習場にやって来た。「初めまして!」。おそるおそる名刺を差し出すと、晴れやかな笑顔で対応してくれた。引退を間近に控えた緊張感や悲壮感は一切なかった。 ■「僕はサラリーマンなので」 社会人野球には「都市対抗」と「日本選手権」という2大大会が存在する。トヨタはこの都市対抗で2回、日本選手権では7回優勝している名門。佐竹さんはほとんどの優勝を経験している。 なかでも2016年には、トヨタを初めて都市対抗優勝に導き、MVPに相当する「橋戸賞」を受賞。獲得してきたタイトルは数え始めれば、キリがない。実際に私も佐竹さんの投球練習を見て思った。はっきりいって引退する人の球ではない。球速も40歳にして150キロ近い。「もっと現役を続けたい」という気持ちはないのだろうか?こんな豪速球、投げたくても投げられない人はたくさんいるのに(もちろん私も)。 そんな佐竹さんはさらっと答えた。 「僕はサラリーマンなので、結局は人事異動じゃないかと思う」 返ってきた答えは想像していなかったものだった。昨年末に、チームから引退を言い渡された佐竹さん。それまでは「野球が仕事」。引退後はまた別の仕事を頑張るだけなのだという。 そんな“サラリーマン”佐竹さんには、大勢のファンがいた。東京ドームで行われた都市対抗1回戦の試合終了後のこと。関係者入り口には、サインを求める多くの人が殺到していた。これはプロ野球の沖縄キャンプなどではよく見る一コマ。 普段はサンデードラゴンズの取材をしている私。これはあくまで個人的な感想だが、サインに応じる選手を見ると心の底から応援したくなる。それは私自身の経験もある、サインをもらった喜びは生涯忘れることのない記憶として深く刻まれるからだ。 そんなことを思いながら佐竹さんの対応を見ていたが、これが圧巻だった。試合終了から1時間以上が経過し、時刻は午後10時を回っていたと思う。佐竹さんは集まったすべての人にサインを書き、時には写真撮影にも応じ、疲れた顔を見せる事なく東京ドームを後にした。こういうところも含めて“ミスター社会人野球”なんだと思った出来事だった。
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