トッド・フィリップス監督が『ジョーカー2』に込めたこだわりとチャレンジ「続編を作るなら大胆でなければ」
第76回ヴェネチア国際映画祭で最高賞となる金獅子賞に輝き、世界興行収入1,500億円を記録した大ヒット作『ジョーカー』(19)の続編、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(通称『ジョーカー2』)が10月11日(金)に公開される。理不尽な社会への反逆者ジョーカーとして祭り上げられたアーサーのその後を描いた本作は、謎の女性リーと出会い暴走が加速していく、孤独で心優しかった男の物語。第81回ヴェネチア国際映画祭のワールドプレミアでも称賛を浴びた本作で、監督・製作・共同脚本を手がけたトッド・フィリップスが、映画の舞台裏やこだわりを語った。 【写真を見る】「生まれて初めて、私は1人じゃない…」ジョーカーを見つめる女性は何者? ■「目指したのはジョーカーよりもアーサーの物語」 ヴェネチア国際映画祭を再訪し「この映画と共にヴェネチアに戻ることに強い思いがありました」と語ったフィリップス監督。映画祭の開催中はエキサイティングな日々を送ったという。「自分の映画を世界に向けてお披露目するのは怖さもあるし、前作と違って周囲の期待値が上がっているのもわかっています。この作品は、大好きなのかそうでもないのか、観た人の感想が結構分かれる映画だと思います。しかし、どんな映画も観た人みんなが同じ気持ちになるわけではないし、逆にそうであったらよい映画とは言えないでしょう」。 タイトルの「フォリ・ア・ドゥ」は“二人狂い”を意味するフランス語。実際に精神分野で使われている医学用語で、1人の妄想が親しい人に感染し同じ妄想を持つようになる感応精神病を指す。「この作品にぴったりなので、タイトルにつけました。私自身もたまに『ジョーカー2』と呼んでいますが」と笑うフィリップス監督。「ドゥ」はフランス語の“2”であることも意識して、命名したという。 「続編を作るなら大胆でなければいけないと考えました」と語るフィリップス監督は製作にあたり、予想外の作品にするにはどうするべきかを重視したという。そこにはホアキン・フェニックスという俳優の資質も影響していたようだ。「ホアキンは演技者として常にチャレンジを求めています。茨の道を進みたがる俳優なんですね(笑)。1作目はホアキンと話し合いをするなかでアーサーというキャラクターを形作っていきました。彼と続編を作るなら、新しいチャレンジがなければ意味がないんです」。 ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトと名だたる演技派俳優が演じてきたジョーカー。DCのなかでも最も危険で予測不能と呼ばれるキャラクターに、どう向き合ってきたのだろうか。「コミックを含めこれまでのジョーカーのイメージは考えないようにしました。ホアキンと目指したのはジョーカーよりもアーサーの物語。アーサーはジョーカーなのかそうではないのか、一言でいえばこれは彼らの関係性を描いた物語です」。フィリップス監督のなかで、ジョーカーはアーサーとは別の存在として帰結しているというが、どう解釈するかは観る側に委ねられている。 ■「映画作りは楽ではありませんが、チャレンジすればなんとかなるという気持ちで取り組んでいます」 前作ではジョーカーのダンスシーンも話題を呼んだが、本作では全編にわたって歌やダンスが散りばめられている。そこへといたる道のりを訊ねると、アーサーの想いを伝えるためにはどうすべきか突き詰めた結果だという。「アーサーの頭のなかには常に音楽が鳴っていて、前作ではそれをダンスとして表現しました。今回はそれを自然に流そうと考えたんです。愛を見つけた(と感じた)アーサーが、自分の感情を歌にする。ちょっとクレイジーに思われるかもしれませんが、僕のなかでは自然に成立しています」。 トリッキーなキャラたちの暴走を描いた本作、ビジュアル面でフィリップス監督がこだわったのはリアリティだった。「多くを占める病院のシーンで特に重視したのは、ロマンチックに見せないこと。美化しない、ゴシック調のものものしさも加えない。時代背景として想定している80年代の病院に入り込んだような気分になる、そんなテイストを貫きました」。 本作にはオリジナルの楽曲に加え、往年の人気ミュージカル映画の名曲も盛り込まれたが、フィリップス監督は「ミュージカル映画ではない」ときっぱり言い切る。「観る前からこういう映画だと固定概念を植え付けたくない、ジャンルやスタイルを限定したくないということです。前作を観てくれたなら、ミュージカル映画と言われてもハッピーな気分になれる作品だとは思わないでしょう。それでも、あらゆる意味でミスリードしたくない。ですからあえて、これはミュージカル映画ではないと言っているんです」と明かしてくれた。 アーサーの相手役として本作に登場するのが、病院で出会う謎の女性リー。ジョーカーに共鳴し、暴走する彼女をレディー・ガガが演じている。フィリップス監督がプロデュースで参加した『アリー/ スター誕生』(18)ではアカデミー賞主演女優賞にノミネート。アーティストとしてだけでなく、俳優としても高いポテンシャルの持ち主だ。「彼女を起用した一番の要因は、この映画に音楽をもたらしてくれる俳優だからです。高い演技力の持ち主なので、キャラクターがどんな気持ちで歌っているのかを理解し、的確に表現する力を持っています。期待に応えてくれただけでなく、リーというキャラクターにもっとも重要な脆さを見事に表現してくれました」。 賞レースを席巻し社会現象を巻き起こした前作。ほかにも「ハングオーバー」シリーズなど大ヒット作を手がけてきたフィリップス監督は、これまでも多くのプレッシャーにさらされてきた。「映画作りは楽ではありませんが、チャレンジすればなんとかなるという気持ちで取り組んでいます。たくさんのスタッフがいて、なかには何度も組んできた人たちいるんです。彼らと一緒に仕事ができる喜びは、なにものにも代えがたいんですよ」 前作に続き、早くもワールドプレミアで物議を醸している『ジョーカー2』。“アーサーの視点”をより強調した本作は、新たな出会いを通し思いがけない方向へと転がりはじめるアーサーの心を描く。「1作目に対する“答え”ではない」とフィリップス監督が言うとおり、前作とはまた違う衝撃が味わえる問題作に仕上がった。 取材・文/神武団四郎