吸空サイダー×シベリアンハスキー×毎晩揺れてスカート『Grasshopper vol.27』レポート「こんな楽しい月曜日は初めてかもしれない」
11月25日、東京・下北沢Flowers Loftにてライブイベント『Grasshopper vol.27』が開催された。 【全ての写真】女性ボーカルをフロントに据えた注目のバンドをピックアップした『Grasshopper vol.27』(全13枚) チケットぴあが次世代の音楽シーンを盛り上げサポートすべく立ち上げた『Grasshopper』。2021年の初開催以来、クジラ夜の街、bokula.、ブランデー戦記、サバシスターら新進気鋭のアーティストをラインナップし、派生イベント『Grasshopper WEST』『Jump Higher』と合わせてアップカミングな才能を先取りできるショーケースとしての存在感を高めてきた。 第27回目となる今回は、女性ボーカルをフロントに据えた注目のバンドをピックアップ。吸空サイダー、シベリアンハスキー、毎晩揺れてスカートの3組が、それぞれの親和性と特異性を浮き彫りにしながらしのぎを削った。 トップバッターを務めたのは東京・町田発の4ピース、吸空サイダーだ。水面からゆっくりと顔を出すようなチルでLo-FiなSEをバックにメンバーが登場するが、彼らが音を鳴らすと空気は一変。一曲目の「稀と角部屋」からハイジ(サポートg)は客席へと乗り出すようにプレイし、オーディエンスを一気に引き込む。月曜日の憂鬱を吹き飛ばす爽快なロケットスタートだ。 勢いそのままに流れ込む「強虫ファンファーレ」では、パンキッシュなサウンドの中でふとした瞬間に覗かせる繊細さ、あつし(g)による開放弦を利用したリフワークがフックに。疾走感あふれる「秘色」で、てん(b&vo)は自身の頭やベースのボディを叩きクラップを誘う。ボトムの太いサウンドでアンサンブルの屋台骨を支えながら、その佇まいで会場の空気を掌握する、堂々たるフロントパーソンっぷりである。膝を折りながら感情を剥き出しにするあつしのソロも飛び出し、歓声がこだました。 MCにて、てんが「『Grasshopper』、開催してくれてありがとうございます。来てくれたみんなもありがとう。一緒にステージに立ってくれる君らもありがとう」と感謝を述べると、メンバーたちは照れ笑いを浮かべる。「私の今までを書いた曲」との紹介で披露されたのは、夕焼けを思わせるオレンジ色の照明が映える、ミドルテンポの「エンドロール」。先ほどまでの汗が滲むような攻勢から一転して、センチメンタルなムードを作り出していく。 てんは、儚げな声と歌うようなベースラインで自身の内面に焦点を合わせ、残る3人の演奏がそれに寄り添った。ところが、続く「だらしない」でストロボライトと鋭いギターストロークがしめやかな空気を切り裂くと、ソウマ(サポートds)が手数の多いビートで前へ前へとてんの歌声を後押ししていく。さらに、シンプルな8ビートからダンスビート、メロコア譲りのツービートへと展開するアイデアたっぷりの「夕凪」まで、バンドの巧みな表現力を感じさせる圧巻のセクションだった。 「今からやる曲、普段はあんまりやらないから!」と繰り出されたのは、歌心あふれるロックチューン「ブルーリオン」。「もっと手が欲しい!」という煽りに応えるようにオーディエンスがステージに手をかざすと、てんは「『Grasshopper』、頭から完璧じゃないですか!」とご満悦だ。ラストは吸空サイダー流のポップネスが弾ける「猫背」。あつしがスタンドマイクをフロアに向けシンガロングを促す。35分のステージで多彩な手札を出し切ったメンバーの笑顔が強く印象に残るエンディングだった。なお、この日の吸空サイダーは、本イベントの後に別会場にてもう1ステージをこなすまさかのダブルヘッダー。その抑えきれないバイタリティは、さらなるスケールアップへと繋がるに違いない。 早くも温まり切った会場に二番手で登場したのは、『JAPAN JAM 2024』『SUMMER SONIC 2024』といったフェス出演でも話題を呼ぶシベリアンハスキー。ステージ上で円陣を組むメンバー達は気合十分のようだ。口火を切ったのは、軽快な4つ打ちのビートに思わず身体が揺れる「いたいよ」。美月(vo&g)の歌唱は一見ぶっきらぼうで物憂げだが、どこか遠くに届くことを信じてもいるような確かな芯を感じさせる。たった一瞬で、空間の隅々までを彼女のパーソナルスペースに変えてしまう特別な声。結成から一年余りで大舞台に立つ大器っぷりを、早くも実感させられた。 そのまま、飾り気のないストレートなアレンジだからこそメロディと言葉が心の奥底まで沁みる「愛する君となら」へ。かめ(g&cho)のチョーキングやビブラートを多用したロックンロールなギタープレイが冴え渡る。「今日はお招きいただき、そしてご来場いただきありがとうございます。最後までよろしくお願いします」という美月のまっすぐな言葉に拍手が送られると、ここからはグッとトーンを抑え、シリアスなモードへと移行。 「届かない」は、ボーカルとギターのみで極端に音数を絞って幕を開け、中盤以降バンド全体で速度を上げるという特殊な展開の楽曲だ。しかしその緩急は、ひとり思索に沈み込んだ後に溜め込んだ思いを爆発させるような自然な感情の流れを描いており、リスナーを置き去りにはしない。どこか牧歌的なフレージングが印象的な「しろくろ」では、3拍子に切り替わる間奏、かめと結楓(ds&cho)によるハーモニー、丸みを帯びたかめのギタートーンが、一筋縄ではいかない奥行きをもたらしていた。 「星空を抱きしめて」からは、クライマックスに向けて再びスピードアップ。大城旋律(サポートb)(なんと6弦ベースの使い手である)のベースラインが大いにうねって暴れ回り、かめも思い切りの良いソロを弾いてみせるが、縦に揃えるポイントは固くキメる、盤石の演奏力が頼もしい。「アパートの一室で」のイントロでは、迫力満点のドラムフィルとド派手なベーススラップによるソロ回しが、会場をさらなる熱狂の渦に巻き込んでいく。美月の歌声は、ここに来て今日一番の伸びを見せているようだ。インパクト抜群のパワーコードリフで駆け抜けるポップパンクテイストな「ユー!」を鳴らし終えると、四人はフロアに長い時間をかけて一礼しステージを締めくくった。スリーマンライブへの出演自体が珍しいとMCで語っていた通り、貴重な長尺ライブを届けたシベリアンハスキー。一曲一曲でバンドのパーソナリティを開示し、少しずつ観客と心を通わせていくような、親密な時間だった。
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