「900万円の高級トラック」もイーロン・マスクなら売れる…EV逆風の中、テスラが「一人勝ち」できた理由
■「工場はマシン(製品)をつくるマシンである」 サイバートラックは、テキサス州の「ギガファクトリー5」で製造されている。「ギガファクトリー」とはイーロン・マスク氏の造語で、超大量生産が可能な工場を意味する。現在はネバダ、ニューヨーク、上海、ベルリン、テキサスの5工場が稼働し、メキシコに建設が計画されている。 マスク氏は製品のアイディアが優れているだけでなく、生産の考え方にも独特な発想がある。「工場はマシン(製品)をつくるマシンである」という発言が象徴するように、彼は工場全体がひとつのプロダクトと考えている。 マスク氏には「自動車を進化させるより、自動車をつくるマシンである工場を進化させたほうが、効率は10倍高い」という発想がある。過去の株主総会では、「アウトプット(Output)=ボリューム(Volume)×密度(Density)×速度(Velocity)」と説明している。ここでいう「ボリューム」「密度」「速度」とは、次のような内容を指すと考えられる。 ---------- 【ボリューム】 投入するインプットや時間 【密度】 工場全体での集積度(必要な部品の向上も集積) 【速度】 つくる速度(集中度、稼働率、効率性、同期化、持続可能性) ---------- ■伝統的な自動車メーカーとは違う「常識破りの生産方式」 例えばギガファクトリーでは、製造途中の車両はベルトコンベアで運ばれるのでなく、無人搬送車にのせられてラインを流れてくる。コンベア方式が、どこかに不具合が生じると製造ライン全体がストップするのに対して、ギガファクトリーでは不具合が起きた無人搬送車だけが脇によければよい。機動性、柔軟性、スケーラビリティー(拡張性)、そしてスピードを重視したシステムとなっている。 テスラが昨年3月に発表した生産方式「アンボックストプロセス(Unboxed Process)」も、従来の自動車業界になかった発想からできている。 これまで自動車の製造ラインでは、フレームとボディが一体となった「モノコックボディ」にエンジンやトランスミッション、タイヤなどのパワートレインを取りつけるのが主流だった。アンボックストプロセスでは、箱型のモノコックボディはつくらず、車両を6つのモジュール(フロントボディー、フロア、リアボディー、左アッパーボディー、右アッパーボディー、ドアやフードなど)に分割して別々に製造して、最後に一体化して完成となる。パソコンの製造工程に近いといわれ、マスク氏らしい常識破りの生産方式だといえる。 筆者はかつて、イーロン・マスク氏とは「宇宙レベルの壮大さで考え、物理学的ミクロのレベルで突き詰める」ような人物だと評したことがある。スペースXのロケット開発は、まさに彼の壮大さと緻密さを示すものであり、常識にとらわれず新機軸を打ちだすところはテスラのギガファクトリーに通じるだろう。