考察『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』9話|亡き父・耕助と並んで歩く草太「パパ、この道でええ?」
昨年、ギャラクシー賞月間賞受賞など高い評価を受けた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の地上波再放送が話題です(NHK 火曜よる10時~)。「令和の新しいホームドラマ」の呼び声も高い本作、ドラマに詳しいライター・近藤正高さんが9話を振り返ります。 【画像】8話|「変わらんでええ。昔もええ。今もええ。一生懸命食べて、一生懸命生きてれば、それでええ」のシーンをイラストでチェック
草太の不安を解消する亡き父の言葉
前回は主人公・岸本七実(河合優実)の祖母・芳子(美保純)の過去を描くため50年前までさかのぼったが、今回・第9話は2025年と、いきなり未来に飛んだ。BSでの本放送時点では2年後、現時点からいえば来年である。それなのに、冒頭の七実の新刊のサイン会のシーンでは、サインをもらいに来たファンとして今年春に解散したお笑いコンビ「ハイツ友の会」の二人が出てきたので、思わず脳がバグった。コンビのうち向かって左にいた西野(そういう芸名なのです)がしきりに“芳子推し”をアピールするので、七実は、芳子はいまケアハウスに入っており、娘のひとみ(坂井真紀)とは前より関係がよくなったと教えてあげる。 二階堂(古舘寛治)が企画したドキュメンタリー番組の取材が実家に入るため、このとき七実は住んでいる東京と神戸の実家のあいだを往復していた。実家には芳子を含め、家族が久々に集まり、カメラが回される。 岸本家はここ1~2年のあいだに変わりつつあった。実家に暮らすのはいまやひとみと七実の弟の草太(吉田葵)だけ。ただ、すでに草太も勤務先のカフェに隣接するグループホームに入居すると決めており、一人暮らしに必要なものをノートに書き出していた。しかし、ひとみは息子が家を出ていくことをなかなか受け容れられない。彼の部屋の下見も七実に任せ、彼女は行かなかった。 このときひとみの頭には、草太がダウン症による障害を抱えていたため、出産直後には病院で引き離されることが多かった記憶がよぎっていた。当時、ひとみは草太の将来に不安しかなく、夫の耕助(錦戸亮)に当たり散らしたりもした。 だが、草太はその後ちゃんと成長した。仕事を始めたのを機に家を出ると決めたのは、その何よりの証拠だろう。その草太が一人暮らしを始めてまもなくして、夜中、急にグループホームを抜け出した。ひたすらに歩き、一体どこへ向かおうとしているのか。気づけば、彼は長い一本道を亡き父・耕助と並んで歩いていた。そしてこんな話を交わす。 「パパ、この道でええ?」 「この道でええ」 「僕、合うてる?」 「合うてるで」 「パパ」 「何や?」 「僕、まちがってない?」 「……まちがってないで。うん。草太はず~っと合うてる」 「はい」 「そのままでずっと合うてる」 「はい」 「これからもずっと、ずっと合うてる」 草太のなかでは、いざ一人暮らしを始めたものの、自分の選択が本当に正しいのか不安があったのだろう。道の途中で耕助が現れたのも、草太が相談したくて呼び出したに違いない。だが、彼の不安は父の「まちがってないで」の言葉で解消される。「いままで、ありがとう」と告げると耕助は消え、朝日が昇ってくる。それは草太の前途を祝福するかのようであった。 草太が向かっていたのは実家だった。玄関で出迎えたひとみは思わず叱りつけるも、すぐに何かを思い出したのか、彼を抱きしめる。ひとみが思い出したのは、草太が昔から新しい場所を苦手としていたことだ。幼いころ、それまでひとみに髪を切ってもらっていたのが初めて理髪店に連れて行かれたときも、草太は強く拒んでいた。 しかし、今回草太がグループホームを出てきたのは、それが理由ではなかったはずだ。おそらく彼は、一人暮らしを始めるときにはできなかった家族への挨拶をするために戻ってきたのではないか。近所のコンビニでひとみと七実にジュースをおごっていたのを見て、やはりそう考えるのが妥当だと思った。