日産の不振の原因は「軽自動車」にもある!? 軽のプロ「ダイハツ&スズキ」以外にとっては「パンドラの箱」
軽自動車はパンドラの箱
このような状況は、N-BOXが圧倒的によく売れているいまのホンダも状況は似ている。今回の統合による最大限の効果を得ようとするならば、日産、ホンダとも日本国内での軽自動車販売をやめるぐらいの大英断も必要なのではないかと考えている。 自販連(日本自動車販売協会連合会)及び全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の統計をもとに独自計算すると、2024年1月から11月の累計販売台数でみると、日産の軽自動車販売比率は約39%、ホンダの軽自動車販売比率は約42%となっている。ちなみにトヨタの軽自動車販売比率は約1.2%となっている。スバルは軽自動車の自社開発及び生産をやめたことが、いまの世界的なブランディング構築に貢献したともよくいわれている(現状、国内ではダイハツからのOEM軽自動車をラインアップするが、販売自体は積極的ではないように見える)。 トヨタ系ディーラーでは、軽自動車を販売してもセールスマージン対象外にするなど、軽自動車販売への依存を抑制する動きを見せている。あくまでも、アルファードなどの車両をすでに購入したお客が、「軽自動車がほしい」となったときに他メーカー系ディーラーへ流れるのを止めるためのツールとしての取り扱いに徹底しているのである。 また、トヨタは現状でもヤリスからアルファード、クラウン系までまんべんなく販売している。これは「クルマを売る」というよりも「クルマを買ってもらう」という姿勢での商売をメインとしているからといえよう。 新車がほしくてディーラーにきたお客と商談して条件がまとまり契約成立というのは、「新車を売る」という表現が近い。逆に「この人そろそろいけそうだ」と、当初は買う気もなかったお客に新車を販売してしまうのは、「新車を買ってもらう」という表現が似合う。なんだか同じように見えるとしても、このふたつの違いは大きい。 新車を買ってもらうという売り方が得意なトヨタ系ディーラーだからこそ、他メーカー車より納期がかかったり、新規受注停止が頻繁に発生しても、目立ったクレームもなく販売することができ、納車が早いなどといった強力な武器をもつトヨタ以外のメーカーへお客が流れにくくなっているのである。 軽自動車をはじめ、手ごろな価格帯の新車を売り慣れてしまうと、「新車を買ってもらう」的な売り方がセールスマンの間でも定着しにくくなり、「買ってもらう」的な売り方が必要とされることの多い高額車両が売りにくくなってしまう。 いまの日産の売れ筋はノート、セレナ、そして軽自動車ぐらいともいわれている。ノートはレンタカーなどフリートユースも目立ち、セレナはトヨタ・ノア&ヴォクシーやホンダ・ステップワゴンといったガチンコでライバルとなるモデルもいて単純に条件勝負になりやすい。 そして、軽自動車は圧倒的に売りやすいとなると、筆者から見ると現状の日産は売りやすいクルマに集中するべくしてなった、つまりは、セールスマン個々でもちろん力量や売り方は変わってくるのだが、全体で見ればセールスパワーのダウンを軽自動車の扱い開始で招いてしまったとも筆者は考えている。 軽自動車はブランド全体の販売台数を押し上げるのでついつい手を出してしまいがちなのだが、「パンドラの箱のフタを開ける」ともいわれており、登録車販売をメインにしてきたブランドにとっては取り扱い注意なのである。 スズキやダイハツは長年軽自動車をメインに販売してきており、業販比率が高いのが特徴。メーカー系正規店としては拠点展開を限定的とし、販売協力を結んでいる街の整備工場や中古車専業店での販売比率が圧倒的に高い、つまり販売コスト(セールスマンの人件費など)もきちんと押さえているのである。 世界的に見ると、今回の経営統合へ向けた動きを招いた背景はほかにもあるだろう。ただ、国内に目を向けると、長いこと軽自動車販売にある種依存してきた結果、事実上総合メーカーとしての看板を返上してしまったことが、いまの日産の立場を招いたと筆者は考えている。 記者会見にて、「日産の救済ではない」とホンダの三部社長は語っているが、軽自動車販売への依存傾向があり、登録車がバランスよく売れていない国内販売の現状だけを見れば、両社の置かれている状況に大きな差はないように見えるというのもいいすぎではないものと考えている。
小林敦志