「地面師たち」が海外で“失速”のなぜ 日本の視聴者は気付かない「物足りなさ」と「息切れ感」
日本では独走状態
配信中のドラマシリーズ「地面師たち」(全7話)がヒット街道をばく進中だ。Netflix国内テレビ部門トップ10で6週連続1位を獲得するなどドラマ界を席巻している(8月26日~9月1日集計まで)。ただし、海外での人気は失速気味となっている。世界で戦うために、見えてきた課題とは。 【写真】実際の「地面師」事件の土地に誕生した高級タワマン。舞台となった古旅館「海喜館」の外観も ***
原作は新庄耕氏の同名クライムノベルで、映画「モテキ」「バクマン。」、テレビドラマ「トリック」「エルピス―希望、あるいは災い―」などを手掛けた大根仁監督が、脚本を担当し実写ドラマ化した。架空の不動産売買を通して巨額の金を騙し取る「地面師」と呼ばれる詐欺師集団をクローズアップし、その裏の顔をダークなタッチで描いている。 地面師グループのメンバーを綾野剛、豊川悦司、北村一輝、ピエール瀧、染谷将太、小池栄子、地面師を追う刑事をリリー・フランキー、池田エライザ、大手不動産会社幹部を山本耕史が演じるなど主役級の俳優をそろえているところも、予算規模の大きいNetflixならではの豪華さだ。(※以下、ネタバレを含みます) 海外ドラマに詳しい文化部記者がこう指摘する。 「『地面師たち』は2017年に東京都品川区で実際に起きた被害額55億円の不動産詐欺事件をモデルにしているだけにストーリーに説得力があります。全7話では大きく2つの詐欺事件が取り上げられますが、欲望が欲望を生んでどんどん大型詐欺の計画立案へとのめりこむ地面師たちの狂気が恐怖を生みます。 中でも100億円の詐欺をぶち上げた豊川演じるプロ詐欺師のリーダー・ハリソン山中は、邪魔者を消すことに執念を燃やしており、その殺害について美学を持つほど。ハリソンを追う警視庁捜査二課の刑事・下村(リリー・フランキー)には残忍な不意打ちを食らわし、仲間だった情報屋の竹下(北村)の殺害方法は残忍すぎて、目をそむけるほど。暴力や情交のシーンは、従来の日本の地上波では絶対無理なだけに視聴者を虜にしているのでしょう」 主要人物で特に印象に残るのは、ダブル主演の綾野と豊川だ。綾野は父の経営する不動産会社に勤めていた辻本拓海役。自身の判断ミスによって「地面師」による不動産詐欺にあい、自暴自棄になった父親が自宅に放火して一家心中を図る。父親は助かったものの、母親と妻子を亡くすという壮絶な過去の持ち主だ。事件後、運転手をしていた辻本はホテルの部屋で偶然、ハリソンに出会い、犯人の地面師を探すために自分自身が地面師になるという複雑な設定になっている。 「辻本にとって地面師のハリソンは天敵のはずなのですが、真面目な性格が奏功してハリソンの欠かせない相棒となり、5年の月日が流れます。辻本の心の傷を見透かしたハリソンの悪人ぶりは度を超えていますが、豊川の切れ味鋭い演技が嫌味を消し去り、人間離れしたハリソンの残虐性を見事に表現しています。 豊川といえば、2021年12月に配信されたプライムビデオの新感覚刑事コメディー『No Activity/本日も異状なし』で、迷言が得意な万年ヒラ刑事を演じていましたが、『地面師たち』で視聴者を恐怖にたたきこむハリソン役は、豊川の代表作になるでしょう。ナレーションを山田孝之、音楽を石野卓球が担当。石野の中毒性のある音楽はドラマを包む緊張感やヒリヒリする感覚を増幅させ、鳥肌が立つほどです」(前出の記者)